四年前のめぐり合い

彼女とは、実に不思議なめぐり会いだった。いや、めぐり会いという言葉は当たらないかもしれない。現実に私たちは、ついに会ってはいないのだから・・・。

私たち−私とその女性は、四年前に知り合った。だが、私は実際の彼女はおろか彼女の写真すら見たことがないのである。手紙だけの一方的な交際だった。それも、ほとんど彼女からの一方的な・・・。私は多忙を口実に、二度か三度、簡単な手紙を書き送っただけだった。それなのい、なぜ、彼女の結婚が、私の胸をかきむしるのだろう・・・。失恋にも似た心の痛手に、私はいま打ちひしがれている。

せめて一度でいいから、対面の機会をつくっておけばよかった。もっと早く、素直に私の真情を訴えればよかった。あれを思い、これを思うにつけ、淡い悔恨にも似た思いに、胸はうずくのだ。

恋だったのだろうか・・・。

恋だったといえるかもしれない。

不思議な情感・・・人はだれでも、ただの一度も会ったことのない人に、手紙だけで恋ができるものだろうか−。

彼女は三人姉妹の末っ子である。名前を打ち明ける必要はないだろう。今は戸籍すら変った人である。幸福な彼女の結婚生活が、心なきジャーナリズムの土足に踏みにじられることは、私の心が踏みにじられることなのだ。

かりに、その名をK子と呼ぼう。

K子は、東京に最も近いある地方都市の高級住宅地に住んでいた。父は某製鉄会社の重役、母はその土地の名流婦人である。生け花、茶の湯をたしなみ、日本舞踊は坂東流の名取りでもある。

K子も、その姉たちも、東京の高校で教育を受けた。K子はさらに、洋裁を志し、東京の服装学院を出ている。

長姉は良縁を得て結婚し、夫に従ってパリに渡った。・・・と書いてしまっては、あまりにもそっ気ない気もしないではない。私はここで、改めて彼女から寄せられた手紙の一節を加えながら、手記を続けることにしよう。四年前、私の手もとに、数多くのファンレターといっしょに届けられた、最初の手紙がこれである。