ある雪の日に・・・

手紙は確実に、一週に一度ずつ来るようになった。それも、必ず土曜日の夜書いて日曜日の朝投函するらしかった。

内容は、チビちゃん自身のこと、パリに渡った長姉のこと、お見合いするという次姉のことなど、折にふれ、季に応じて文面は違っていたが、心やすく話しかけてくる書き方は変らなかった。もちろん、その中には、私の映画評もこまごまと書きつらねてあった。ある時は、私のゴシップに泣きながら抗議して、涙でインクをにじませた手紙もあった。

だが、こうして、手紙の束がふえるにしたがって、私にはK子のこと、その家庭のことがおぼろげながらわかってきた。生まれは昭和九年、私より三つ年下であることも・・・。

私の心は奇妙に落ち着かなかった。そして、なにはなし、K子からの手紙を心待ちするような日々にもなっていた。だが、私はかたくなに、返事を書こうとはしなかった。筆を持つこと自体、私には何か面はゆい気がしてならなかったのだ。

年が明けて、京との街々に雪が降り積もっていた。寒い日の朝であった。突然、K子から立派な丹前が送られて来た。それには、こんな手紙がそっと添えられていた。

−京都は寒いと聞いています。これは母が父のために買った布地ですけど、おにいさまにぴったりだと思って、おねだりして、チビちゃんがいただき、一生懸命で縫いました。おそでを通してください −

趣味の良さは、母譲りのものなのだろうか・・・。私はそっとそでを通しながら、ほのぼのとした情感に、頬のほてってくるのを覚えずにはいられなかった。