デビューのころ

太田 僕が、始めて雷ちゃんについた作品は二十九年の『幽霊大名』だった。

土井 はいったばっかりのころでしょう。勝ちゃん(新太郎)と一緒にデビューしたのが『花の白虎隊』で、その後で二本目だ。僕はそのあとの、『千姫』。池ちゃん(池広)は始めのころ、ずっーとないでしょう。

池広 僕は、雷ちゃんによくつくようになったのは『炎上』以後だから、ずーっと後です。始めのころは、土井君や、太田君の方が多いね。

土井 このごろは、池ちゃんに、バトンタッチだ。

池広 僕は、雷ちゃんと一緒に仕事したのは、彼の全作品から言うとさ細な数だよ。ただよそから来た監督さんの場合、割とつくことが多いでしょう。そういうのに、雷ちゃんが、割と出てますからね。

土井 だから君の仕事の場合、『炎上』、『ぼんち』だろう。

池広 うん、まあ『炎上』で一番仲良くやったからね。あの後、徳さん(田中徳三監督)のにずいぶん出ている。

土井 濡れ髪シリーズで、ずっーと出てたからね。

太田 『幽霊大名』の時の印象は大変細いということだった。(笑)

土井 僕もそうだな。最初のころの印象と言うのは。大体弱い線というのが、雷ちゃんの身上みたいな形で、それで出発したのが『花の白虎隊』でしょう。『千姫』で雷ちゃんは豊臣秀頼だったけど、ああいう話の中の秀頼というのに、ちょうど合うんだね。ああ言った弱さというのが。一緒に出ていた東山千栄子さんたちにくらべると、本当にぼんぼんらしくて、可愛くて。(笑)

太田 僕は、立廻りで驚きましたよ。大変立派だと思いましたよ。これはやっぱり舞台にいたからでしょうが、斬るときの形が綺麗なんですね。

土井 秀頼は、大変お人形さんであったし、またお人形さんでよかった役でしたし、可もなく、不可もなくというとこなんでしょうね。雷ちゃんの、いわゆる品のよさと言うのが、あの秀頼でね。勿論、その時の雷ちゃんは、今の雷蔵ではなかったし、演技者以前でね、これが、カラーの最初でしたね。

太田 大映としてもそうなの?

土井 いや、以前に『地獄門』があるから二本目ですよ。

太田 大体『千姫』で出て来たんでしょう。雷ちゃんは。

池広 そう、あのあたりぐらいからだね。

太田 雷ちゃんは、『千姫』で出て来て、溝口さん(故健二監督)の『新平家物語』で演技者として、一本になったわけでしょう。作品をならべて見ると、雷ちゃんを、叩き上げたというのは、やっぱり溝口さんだね。