お住まい拝見
ひっそり見越しの松

 

 二階の十畳間の彼の書斎 - 三マスに“雷”の紋の入った楽屋座ブトンを、前の机の上には武者小路実篤の「井原西鶴」や、早大教授てるおか・やすたか著「好色」など参考書が積まれている。今から『好色一代男』の世之介研究に余念がないというところ。床の間には、養父母、市川九団次夫妻の“イハイ”がまつられている。

 一階の庭先を見晴らす奥座敷の広縁にくつろぐ雷蔵氏。「結婚は」「まだなかなか。アア、今度、直木賞をとった平岩弓枝さんどうです?」突飛な話。彼女が最近週刊誌で「雷蔵さんの大ファンで、理想の男性は中肉中背の和服の似合う人、いうなれば雷蔵さんタイプの人」といってるのに感激した由。「一つ下の女性はどうですか」本気のようにいう。近代的センスがあり、座談がうまい。彼の真骨頂発揮。

 同居人は大番頭、森本良太郎(48)、中番頭、住永清司(33)、小番頭、布目真弥(18)、淵竜子(42)、女中の節子、秋子さんら六人。大番頭などテレビ「番頭はんデッチどん」でないがクラッシック。犬は日本犬とスコッチテリア。

註:@見越しの松は塀ぎわに植えて外を見おろすような形になっている松の木。A表千家千宗左宗匠は十三代即中斎無盡宗左(1901-1979)B「菊九百秋充」菊に宿る露は、長寿の薬といわれ、その花弁を陰干しにし、枕の中に入れ、「菊枕」として眠ると邪気を払い、不老長寿を得るとして珍重された。かつてそれを用いた「菊慈童」は九百年も長生きをしたという。