日曜日に会いましょう
映画監督もやりたい


市川雷蔵さん

 昭和二十九年六月、大阪歌舞伎座の「高野聖」出演を最後に映画界へ入った市川雷蔵が六年ぶりに舞台に出た。こんどは映画スターという名を背負って。その大阪・新歌舞伎座は芸術院会員の市川寿海の特別出演で、新旧あざやかに対照的な親子の競演である。この公演にはいわく因縁がある。雷蔵がカブキの世界から映画入りした時に永田大映社長と寿海が一つの約束をした。「雷蔵が一人前の映画俳優になったら、親子で晴れの舞台に出演させよう」というものだった。それが実現して、こんどの公演になった。

 「舞台の話があったとき、別になんの感慨もなかったですよ。ことさらどうのこうのというこもないんだ。それに来てみると、小さい時から知っている人ばかりでね、裏方さんも、劇場の人も。ぼんぼんが立派に大きなって帰ってくれはった、ということですわ。故郷へ帰った感じがひしひしとしましたね。それに見た目には派手な親孝行だし。おやじも喜んでくれてることでしょう。本当の親孝行はこういうことでないかもしれませんが」と新歌舞伎座の楽屋で話す雷蔵は、全くの現代青年だ。口調も話の中身も率直でドライである。