大作一本立への転換 ▽・・・大映の巻・・・▽

-雷蔵・勝の成長に期待-

 左(この場合は下記だが・・)の作品中、どれが売りやすく、どれが売りにくかったか、お答えください。「残菊物語」「炎上」「桃太郎侍」「日蓮と蒙古大襲来」「天竜しぶき笠」「遊侠五人男」「花の遊侠伝」

 以下、大作として有利なセールスが出来たか(「雪女の足跡」など六作品について)プログラムピクチャーとして、有利なセールスが出来たか(「遊太郎巷談」など十作品について)

 左の男女スター(この場合は下記だが・・)長谷川一夫、京マチ子などの大映専属の四十六名の中から、現在セールス上に有利なスター、又は有利になると予測できるスターに、男女各十名宛、順位をつけよ・・・・など、八項目の質問に○×式の回答を求める「大映京都作品調査票」が、営業第一線のセールスに配布されている。

 企画の対象を女性ファンにおく−という新方針に対応して、まず、営業のフロントから、偽りのない声を聞こうというわけだ。こうした調査活動をはじめ、長谷川一夫、市川雷蔵、勝新太郎の三スターの企画には、或る程度、専任プロデュサー制を敷くとか、社外からアイデアを求めるなどの試みがなされている。“一本立大作主義”への転換を、合理的に進めてゆこうという、如何にも大映らしい方法である。

 雷蔵を名実共に大スターに仕上げる。これが第一のポイント。次に、勝をもう一段、引き上げること。-三浦所長

 もともと雷蔵には女性ファンが多かったが、今年はさらに磨きをかけてファン層を拡げようというのである。とかく、“芸術づき”たがる時期だが、興行企画で人気確立をはかることが先決というわけで、『若き日の信長』に続いて『お嬢吉三』『千羽鶴秘帖』『ジャン有馬の襲撃』といったスケジュールである。

 雷蔵とは異なったパーソナリティを持つ勝には、「二枚目半」以外に、これといった決め手がなかった。伸び悩みの勝を、何とか雷蔵の線にまで押上げようというわけだ。『紅あざみ』に続く『禁男の城』(脚本:依田義賢)は、“イヴの総て”大奥版とでもいうべき女性中心の時代劇だが、そのなかにあって、もまた功利的なインテリ侍に扮する。彼の新ジャンル開拓が期待されてよかろう。

 異色な素材か、特撮をふんだんに使うようなスペクタル・ドラマか、芸術作品か。そのいずれにか徹したものを やる。中間型や混合型は絶対にとらない。-鈴木企画部長

 例えば、タイ・ロケの『山田長政・王者の剣』は、大映でなければ実現しえない企画である。巨匠伊藤大輔の『ジャン有馬の襲撃』また大映ならではの異色時代劇だというのである。

 また、かっての時代劇がそうであったように、流行作家の本格的長篇小説を、大監督によってオーソドクシカルに映画化するということも検討されている。例えば、松本清張原作の『かげろう絵図』を衣笠貞之助が、五味康祐原作の『薄桜記』を伊藤大輔監督が、というように−。

 昨年“立役”への転換を果敢に(?)試みた長谷川一夫も、『女と海賊』をはじめ、オールスターの『次郎長富士』における次郎長、川口松太郎の書き下ろしによる『団七九郎兵衛』(「夏祭浪花鑑」より)など、期待作が少なくない。

 女性中心の時代劇には、先に挙げた『禁男の城』のほかに、石川淳原作の『修羅』や、オリジナルの『恋潮』などが研究されているが、さて、肝心の女優は?となると、甚だ心細い。京マチ子、山本富士子に続くスターの育成ということが、ここでの最も大きな課題と云えるだろう。

 一方、監督の面でも、“一本立大作主義”の大号令による精神的影響は見逃せない。二本立製作によって、ようやく陽の目を浴びた新人監督や、自分の順番を指折り数えていた助監督にとって、“一本立”への王政復古(?)は、たいへんなショックと云えよう。

 登竜門がなくなったのではない。確かに門は狭くなったが、その狭き門を通った者は、将来をはっきりと約束さ れるわけだ。タレント発見の方法が厳しくなっただけのことではなかろうか。 −三浦所長

 なるほど筋の通ったロジックだが、それだけで押し切れる話でもあるまい。その辺に、今後の大映の問題点−“二本立”から“一本立”への転換と、新しいタレントの発見、育成の技術的な問題が残されているのではないだろうか。

 それはともかくとして、五月の『山田長政・王者の剣』、六月の『次郎長富士』、七月の『ジャン有馬の襲撃』を柱とした大映京都の“一本立大作主義”第一陣の成果を期待することにしよう。

(「時代映画」昭和34年4月号より)