今の若い娘さん達はライゾウなどと呼び捨てにはしないのだそうである。雷蔵さん、若しくは雷蔵サマ。無論本人の前でなくとも、だそうである。

彼市川雷蔵は、いかにも役者らしい顔立ちである。

素顔に背広という姿でいても、何処となく脂粉の香りが漂っているような雰囲気が有る。劇界の異端児武智鉄二門下の逸材そして、芸達者では定評が有るが、今後更に経験を重ね、渋味が出て、貫録が付けば(要するに少し時が経てば)どんな役柄でもコナし、上手い芝居を充分に見せる立派な役者になるであろう。

年令の割には人知れぬ苦労を相当積んでいるのだろうが、人柄はよく出来ている。

バカに陽気、という事はないが、春風駘蕩、オットリとしたところがあり、適度のユーモアも心得ていて、良い印象を与えることであろう。雷蔵などというのが現われても笑って済ませることが出来るだろう。

両眼の間隔がやや広いのは、ノンビリ、オットリ型を意味するのである。(逆に両眼の狭い相では、中村扇雀等がある)

但し、普段はそれで結構だが、一旦緩急有る場合も依然オットリ、ノンビリでは困りものだし、又それでは人生の勝利者たり得ない。

無論、雷蔵は大丈夫である。

彼は、引き締める必要のある時は、ピチッと引き締る。このことは口を見ればよく判る。この口には二枚目としての甘さの他に、断乎として決意する男の強さが同居しているのである。

負ケルモノカ!キット成シ遂ゲルダ!コウスルノガ本当ダ!等々というような意志、決断、の積み重ねがこういう口を形成したのである。

「口の形が、人柄によってそんなに左右されるものなのかな?」

などと考える人が有ったらそれは間違いである。白痴に口元の締った人間は居ない、という明白な一例から推察して戴こう。

ところで、彼は、いかに緊張しても、神経がピリピリ尖って、何か有ると眉がピクピク動く、というような事はなかろう。過ぎたるは及ばざるが如しで何事も極端はいけない。余裕を残している方が実力を充分に発揮出来るのである。

その点、雷蔵は理想的である。額、特に眉間の辺りの相は、少年の頃から人生との闘いが有ったか、若しくは人生への闘志が燃えていたか、を物語っている。自己の生活、境遇に甘んじない人間で、常に全身発展しているのである。

眼は才気が閃く。仲々の野心家であもある。但し、一躍大をなす、などという事には向かないし、本人も自覚していることであろう。堅実派の野心家、という行きかたをするならば目的は達せられる。