雷蔵さんのこと

 雷蔵さんの『弁天小僧』の撮影が先日無事クランク・アップした。この作品が雷蔵さんの五十本目の映画出演だという、早いものである。五年前、まだ子供々々した顔で、しかも至極朴訥な調子で撮影所内の各部に挨拶して廻っていた青年が、いつの間にか、押しも押されもせぬ貫禄を身につけて、今や日本映画の代表的俳優の一人であり、ホープにまで大きく成長してしまった。全く驚きでもあり、又嬉しいことである。

 その雷蔵さんは、撮影所では専ら「雷ちゃん」の愛称で呼ばれている。全くライトマンの兄さんも大道具のおじさんも、至極自然に「雷ちゃん、雷ちゃん」と呼び、雷蔵さんも又、気軽にその声に答えている。即ち撮影所のすべての人が雷蔵さんを愛しいるし、又この大俳優は少しもかざらず、五年前の初めて映画界入りした頃の雷蔵さんと少しも変らない態度で皆と附合っている。

 それでいて、この俳優はいたって口が悪い。云いたいことは全くズバリズバリである。「東に鶴田、西に雷蔵」といわれる伝説が撮影所にはある。ここにいう鶴田浩二さんも毒舌をもっては天下に鳴り響いている人である。「西の雷ちゃん」もその点では東の横綱に正に一歩も負けない。呆れるほど愛想がないブッキラ棒であり、お世辞など薬にしたくっても出て来ない。実に立派なものである。しかも不思議なことには、撮影所の総べての人がこの毒舌の雷蔵さんを愛してているし、雷ちゃん自身を自分のもっとも身近な友達だと思っている。この無愛想な雷ちゃんに惚れているのである。雷蔵さんとはそんな人である。

 先日雷蔵さんは所内に「雷ちゃんチーム」なる野球チームを結成した。このチームは撮影所の俳優部を除いた助監督とか、照明、撮影、又は小道具、大道具と所謂裏方さんからピックアップされた人々で作られたチームである。勿論、監督でありキャプテンは雷ちゃん自身である。

 このチームの結成が発表された時、誰もその誕生を喜び、そして所内の野球人種が、我も我もと参加を申し込んだ。勿論、無制限に誰もかれもチームに入れることは不可能な訳で、結局選抜された人々だけが「雷ちゃん」チームに名を連ねることとなったけれど、このチームに対する所内の人々の肩の入れ方は大したものである。ここにも中々人気のある雷蔵さんが浮び上ってくる。

 『炎上』で雷蔵さんは更に一歩大きく前進した。あの美しい整った雷蔵さんの顔が、醜くゆがめられた時、主人公の持つ内面的な苦悶が見事に表現された。即ち、醜くゆがんだ雷蔵さんの顔が、実に美しく見えたものである。ここに雷蔵さんの演技の開眼があった。勿論『炎上』の吾市青年は絶賛された。

 雷蔵さんはまだまだ前進する。もっともっと大きく偉大になる。こんな雷蔵さんを大いに期待すると共に、心からなる応援の拍手を皆さまと一緒に送りたい。

(助監督)

カメラの左横に田中助監督が見える

よ志哉8号より