新春三スターてい談

市川雷蔵・嵯峨三智子・大川橋蔵 / 司会 比佐芳武

主役は強いもの

比佐:各社のトップスター三人に集ってもらっての、新春座談会ですからね、やわらかく、派手にやりましょう。雷蔵君が、仕事の都合で少し遅くなるそうだから、ぼつぼつ初めているとして、嵯峨ちゃん『お夏捕物控』の主演をしてどう、面白かった?

嵯峨:面白いっていうのじゃありませんけど。

比佐:主演となるとだいぶちがうでしょ。

嵯峨:ええ、捕物帖は高田(浩吉)先生の『伝七捕物帖』に出て横から見てたわけなんですけど、自分でやってみて、絵解きをするんですが、これをきめつけていく調子がわからないんですよ。それで困っちゃって、一人ではたいへんだからと、高広(田村)ちゃんを引っ張りだして、半分手伝ってもらったんです。それでもフーフ云いました。

比佐:そして収穫は・・・・。

嵯峨:立ち廻り。あんなに面白いもんだって知らなかった。(笑)

比佐:こんな女にかかっちゃかなわんな。

嵯峨:あまり人を傷つけることなく、何人きてもうまく斬ったんですよ。やってみてほんとに面白いと思った。

比佐:時代劇のダイゴ味を知ったわけや。

嵯峨:自分でやってみてわかったんですが、主役って、とっても強いんですね。

比佐:主役はスーパーマンです。

嵯峨:それで思ったんですが、あたしがほんとに強い女なら、悪人を四五人にして、むつかしく追い立てられていった方が、強さの迫力ってものが出るんじゃないんですか。

比佐:それはあんたの考えちがい。四人や五人を相手に、いくら立ち廻りの手を考えたって、剣道にはなっても映画にはなりませんよ。橋蔵君の『若様侍捕物帖』にしても、ラストは派手に、スーパーマンにならないと、時代劇にはならないんですよ。

大川:僕だって割りきってやってますよ、そこは。

嵯峨:若様って、いい気持ちでしょうね、やってると。(笑)

大川:そう。やってても楽しい。でも、若様でいつも悩むのは、いつも同じようなストーリーなんでマンネリになっちゃうことなんですよ。僕は僕なりに、この若様を、他の諸先輩がやっておられる捕物帖とはちがったものにしたい、そのために、これをスリラー劇にしたいんですよ。

比佐:他の捕物帖と較べるとどうしても小粒なんだね。雰囲気も味もいちばんいいんだからね。ところでみっちゃん、芸というもの、わかりましたか。

嵯峨:いえ、まだぜんぜん・・・・。もうあと五年待ってください、あたしの芸は。まだ芸を云々するところまではいってませんもの。

比佐:芸は深いからね。橋蔵君なんか、僕から見ると、いっぺんに芸がうまくなるタイプじゃない。じりじりと進んでいって、そして二十年スターになる人ですよ。だから二十年先を目標にすればいいんだけど、みっちゃんの場合はちがいますね。女優は早く年をとるから。

嵯峨:だから、あたしの勝負はぎりぎり五年ですよ。

比佐:そうでしょうね。あんまり男と遊ばなんだら七年はもつ。

嵯峨:じゃ、七年先です。(笑)

相手役は恋人

比佐:ま、それは冗談。お母さんの芸どう思います。

嵯峨:もう、あたしがなにも云うことはありませんね。親だからいうんじゃないんですが、形で芝居をしない人なんですね。あたしなんか若いから、形から入っていくでしょう。するとラヴシーンにしても、肩に力が入っちゃって・・・・。ママの場合は、体全体でフワッといっといて、キュッとしまった芝居をする・・・・。このごろ、少しわかってきました。

大川:僕がある監督さんに云われたのは、ふっとつまった時は、跳べということなんですよ。ピョンと跳ぶんですよ。セットの中でもどこでも。すると肩の力がすっと抜ける。

嵯峨:やっぱり肩に力が入っているのね。

大川:そう。だからうまくいかない時は、N・G出してもいいから、思いっきり肩の力を抜いてやるとね、スムーズにいくんだな。

嵯峨:どういうんでしょうね。この肩っていうのは・・・・。あたしにしたって、たしかに肩に力が入っているときってのは、うまくいってないんですよ。

比佐:僕が山田五十鈴さんをえらいと思うのは、早く役を自分のものにしてるってことですよ。それも形からじゃなくね。形から云えば、肩もたいせつなんでしょうが、やはり役の性根を早くつかむことですね。

大川:僕ら、どうしたって誰か女優さんと共演するでしょう。すると、共演してる時ぐらいは、自分の恋人であってほしいと感じますね。ラヴシーンするにしても、相手の女優さんに、公然と恋人があったり、婚約者がいたりすると、正直いって、僕はつまらないな。

嵯峨:でも、あたしは、高田(浩吉)先生に惚れてんだけど、たいへんに。一しょに仕事をする朝なんか、うれしくてしょうがないの、あたし。

比佐:高田浩吉さんは立派だね、相手の女優さんを惚れさしたのは。

大川:恋人のある女優さんはつまらないからって、共演しないという訳じゃないんですよ。僕だって相手の女優さんには、役にはまった人を選びたいんですよ。ただ、セットは入れば、僕の女房役は女房らしく、接していてほしいってことなんですよ。

嵯峨:そうよ。気が合ってる、合ってないってことは、絵になったらはっきりわかっちゃう場合ありますよ。まだ来ないけど、雷ちゃんなんかとは、会社以外ではほとんど会わないんですよ。そして、たまに会うと大ゲンカです。でもセットへ入るとお互いフーフフーフと、仲良くやってるのよ。

比佐:ちょっとして川口松太郎さんお芸道もんやな。(笑)

嵯峨:それほど不思議なものなんですね、芸ってものは

(市川雷蔵氏出席。嵯峨さんと奇妙な挨拶の交換があって)

面白かった仕事

比佐:しかしまあ良く似た二人がいたもんだね、雷蔵君と橋蔵君は。

嵯峨:あれ、似てるかしら。

比佐:僕みたいな脚本家が見ればですがね。そりゃ芸風にしろ、ちがうんだけど。

市川:そう云えば似てますね。それぞれちがうけれども、錦ちゃんにしろ、若いものは若いものでみんな共通点があるような気がするな。

比佐:ところで、今日はとりあえず、芸、酒、女、男でいこうかと、座談会のはじまる前に話あっていたんですがね。

市川:へえ。えらいことになりましたな。芸は語るほどのこともないし、酒は・・・・。

嵯峨:あかんし・・・・。

市川:女はだめやし・・・・。

比佐:何を云うとるねん。

大川:ねえ。

市川:そう。

大川:なにがそう、だよ。(笑)

市川:やっぱり良く似てるね。(笑)

比佐:ところで、今年の仕事では、どんなものが面白かった。

市川:一ばん面白かったのは、『濡れ髪三度笠』と『浮かれ三度笠』の二本。

比佐:どちらもやくざものやね。信長はどうやった。

市川:まあまあというところでしょうね。

比佐:橋蔵君はどうやった。

大川:みんな面白かったですよ、僕は。

市川:ここだけ似てない。(笑)もう少し飲ませると、みんな面白かったけどその中でも・・・・とくるよ。

比佐:雷蔵君、信長はそんなに面白くなかったの。

市川:面白くないことはありませんよ。でも、三度笠もの二本は、楽しかったな。

比佐:『薄桜記』はどう。

市川:『薄桜記』と『若き日の信長』とはおなじくらいでしたね。

比佐:ファンの人に『薄桜記』の評判を聞いてきたとこなんだけど、ラストの雷蔵君の立ち廻りはすごかったと云ってたよ。どこ、それは。

市川:討ち入りの前、十三日の夜です。

比佐:さあ、そこで橋蔵君、同じ義士外伝で『血槍無双』はどうやった。

大川:これは面白かった。

比佐:なにが面白かった、だい。

大川:この二本、ちょっと似てるテーマですね、男同士のの友情という・・・・。

市川:そう、似てる、たださっきおっしゃったラストの立ち廻りの評判が良いということは、時代劇のクライマックスシーンというのはたいてい立ち廻りなんですが、伊藤(大輔)先生のシナリオが、そのクライマックスの立ち廻りへと、劇的構成の上でも、うまく盛りあがっていっていた。それが成功した原因でしょうね。別に新しい立ち廻りをしたわけじゃないけれども、やはり、雰囲気がちゃんと盛りあがっていってたんですね。

比佐:立ち廻りへともっていくタイミングが、シナリオの上でもきちんと計算されていたということは、スターさんにとっては最高だね。これが合わないとスターさんは辛い。僕ら裏方の責任はそこにあるんだね。俳優さんがここを見せるんだというところへ、雰囲気をもっていかなくてはいけない。

市川:あれはうまいこといきましたね。

比佐:その見せ場がちゃんとあるかどうかで興行価値がきまるんだからね。

大川:そうですね。それをはずされたんじゃこっちは困っちゃいますが、そういうシーンの撮影を夜中の十二時過ぎにはやりたくないね。

市川:『薄桜記』のその立ち廻りは、朝の九時からだったから、体の状態としても非常にいい時間だったし、それも、まる二日間でやったんですからね。

三人が共演すれば

比佐:これは夢物語なんだけれども、この三人で共演するとしたら、どんなものがいいだろう。

市川:三人でね・・・・。なにがいいやろう。

比佐:プロデュサーとして一つ承っておきたいですね。(笑)夢物語といいましたがけっして夢じゃないんでね。この三人が顔を合わすかどうかは別としても、アメリカあたりと同じように、日本でも、いずれそういった大きい顔合せ映画を作るようになると思いますね。テレビ攻勢はそこまできてる。

市川:一人、女性がいるんだから、これをめぐらないと・・・・。

大川:三角関係だね、どうしても。

比佐:組み方からいくとそうでしょうね。

市川:そうして男同士には友情があって、しかし、対立してるような・・・・。

比佐:僕もさっきから、三人を前にして話しながら考えてるんだけど、思いつかないんだよ。

嵯峨:とつじょとして云われても、ちょっと思いつかないわねえ。

比佐:男は二人とも二枚目で、女主人公があなたでしょう。立役がいないんですよ。何かあるでしょう。

大川:立役をやりたいな。(笑)

比佐:ラストはそうなりますよ、二人とも。そうでないとお客が承知しない。

市川:ちょいと古い話で、このあいだ日活の裕次郎ものでもやっていたけれど『マンハッタン物語』を時代劇でやるのはどうやろ。一人はやくざで、もう一人は検事。この二人は小さい時から孤児として育ち、成人してから対立するという話だけど。

比佐:因縁話だね。

大川:そういう話がいいんでしょうね。

比佐:ところが作家からいうとね、こういう場合は、必ずといっていいほど、やくざになった者とその愛人になった者が得をするんだよ。よっぽど裏方が検事を書き込まないとこれはこの三人の共演にはならない。というわけはね、検事はその職業柄、約束されていることがあるでしょう、だから動きがどうしても板つきになってくるんですよ。やくざにしろ愛人にしろそれは自由なんだから。

嵯峨:どっちが検事づらしてるんだろう。(笑)

比佐:だからその話を時代劇になおせば、片方は与力だし、もう一人は鼠小僧とか稲葉小僧とかですよ。それでその間に介在するのが善良なる女ですよ。

嵯峨:そう。あたしにぴったり。(笑)

市川:これがミスキャストになる。(笑)

比佐:みっちゃんはどんなものがいいの。

嵯峨:考えてない。まるっきり実現しそうもないから。

比佐:さしずめこの二人に愛してもろうて・・・・。

市川:得だね、こういう時、女一人は。

比佐:そりゃ得だよ。(笑)

嵯峨:二人ともふっちゃうような話、どうやろ。

市川:えッ!ふるの?そしてしょうむない男といっしょになる・・・・。

嵯峨:そうそう。(笑)

比佐:それは面白いね。二人の男の友情を保つために身をひくという話は、いちばん涙がもらえる。

市川:でも、二人の男のために去っていく女に見えるかしら・・・・。

嵯峨:去っていくわよ、りっぱに。

比佐:行きそうにないね。(笑)

嵯峨:行かないでしょうね。(笑)

市川:話はとびますが、この方のお母さんがいま大映にでてるんですがきれいですね。もしも山田五十鈴さんと一緒に出る映画があったら断るね。

嵯峨:なんで。

市川:なんにも芝居ようせんわ、ポーッとして。(笑)

嵯峨:魅入られたのね。云うとくわ。(笑)

来年の野心作

市川:僕は十二月の三十日から行くんだけど、橋蔵君はいつ行くの、ハワイへ。

大川:僕は来年。

比佐:行かん方がいい。これはみっちゃんにも云っといてあげますよ、なるべく外国へは行かん方がいい。

市川:それは、衣笠(貞之助)監督が、こないだ僕に深刻に云ってられましたね。

嵯峨:どうして。

市川:今までいろんな人が外国へ行ったけど、帰ってきてからがよくないんやて。

大川:方角が悪いのかな。

市川:衣笠さんが云うのにはね、なぜ止めるかというと、どういうわけで帰ってからよくなかったか、ということがわかってればいい。それがわかっていないから行くのはやめなさいって。

大川:僕は遊びに行くんだよ。

市川:遊びであろうと仕事であろうと、衣笠さんの云うのではあかんのや。

比佐:ハワイなんか何がいええのや。フラフラ踊ってるのなんか見ても、嵯峨みっちゃんみたいなベッピンはおらへんで。

市川:それはおらんそうだよ。

大川:なにもベッピンがどうのこうのということじゃないんですよ。

市川:日本がいちばんええそうですよ。

比佐:ええにきまってるやないか。そんな話より、来年の野心作を聞こうやないの。

市川:来年の野心作といっても、人間一寸先は闇だし・・・・。(笑)

比佐:闇でも、これをやってみたいというもんはあるでしょう。

市川:これをやってみたいというのんはね、あるようでないんですよ。でも、やるものは・・・・。

大川:『ぼんち』と・・・・。

市川:あんたの方がよう知ってる。(笑)それに、『好色一代男』『安珍と清姫』『風と雲と砦』『源太郎船』・・・・。

大川:『源太郎船』やるの、あれは面白いよ。

比佐:みっちゃんは。

嵯峨:あたしは雷ちゃんの映画に一本ぐらい出してもらうことにして・・・。

市川:この人、うまいこと云うけど、会社がなかなかうんと云わんもの。(笑)

比佐:雷ちゃんのに出るなら。橋蔵君ともやったらええやないか。

市川:東映には出られないんでしょう。

嵯峨:もうみんないいことになったの。

市川:そんなら出たらええやないの。

嵯峨:そんならしょうがないし、行ってくるわな。(笑)でも、松竹では何をやるかわかんないですよ、あたしは女だから。それに、あれをやりたい、これをやりたいと企画を出して、例えその企画が通っても、相手役がいないんですものお話にならないですよ。まるっきり。

比佐:田村高広君に云うたろ。

嵯峨:云ってくださいよ。高広ちゃん、もっと一しょにがんばってくれなきゃ・・・・。

比佐:橋蔵君は何をやりたい。

市川:この人のはね『源氏物語』に、『赤い珊瑚珠』に・・・・。

嵯峨:それから・・・・。

大川:ズーデルマンの『猫橋』

比佐:野心作ばっかりですな。

市川:それから・・・・。

大川:あとはお休み。(笑)

市川:あとは秘密か。(笑)

大川:そうじゃないって・・・・。とにかく年に十四本出るでしょう。すると、オールスターキャストのものが三本、山の御ン大(片岡千恵蔵氏)と北大路(市川右太衛門氏)につきあうのが一本づつ、それに大先輩にも。これだけは自分のものじゃないんですよ。

市川:それでもあと八本あるじゃないの。

大川:『新吾十番勝負』が二本あって、さっきもいった『源氏物語』なんかも、三本分をつぶして大作にするんだから、もうあまり残らない。

比佐:さあこれでみなさんの話は聞きました。私は裏方ですが私にもしゃべらせてください。スターさんは一人では出来ないんですよ。みんなで作るんですよ。誰だってやりたいものは持っていますよ。僕だって書きたいものはあります。でも、われわれは、あなた方を二十年のスターにしようと思ってるんですよ。やりたいものは、不動の地位を得た時にやっても遅くはないんですよ。僕らはあなた方のやりたいもので、プラスになると思ったものはやらしますが、そうでないものはぜったいにやらしませんよ。

市川:けっこうな御意見でございました。

比佐:そんなやさしいことを・・・・。

大川:ではみんな会社におまかせいたします。(笑)

比佐:われわれ裏方はね、スターさんの息が少しでも長いようにと。そればかり考えているんですよ。でも、希望はなんでも云いなさい。

嵯峨:無限大にね。

比佐:また、そういう裏方がいないとスターさんは育たない。

大川:どうぞよろしく。(笑)

(「時代映画」昭和35年1月号より)