男性の肉体美は魅力的か?

若尾 石浜さん、ボディ・ビルやってるの?

石浜 ずうっとやっていたんだけど、体に悪いって、忠告する人がいてね、今やめてるんだ。

伏見 いいですよ、東京組は・・・とにかく体をきたえようという余裕があるんだから、東映なんか、三本かけもちは当り前なんですからね。僕は去年の正月、映画入りしてまだ一年、卒業していないのに、十三本撮ってるんですよ。

雷蔵 十三本?もっと多いでしょう。

伏見 部作で数えると二十四か二十五部作、ほとんど休みなし、それでいて秋には過労で二ヶ月ぐらい入院しました。

和子 まあ・・・。うちのお兄さんも、ボディ・ビルやってたのよ、病気になってやめちゃった。

若尾 ボディ・ビルもいいけど、男性ナンバア・ワンをなんているんでしょ。筋肉隆々っていうの、魅力を通りこしちゃってこわいみたいね。

石浜 「チャタレイ夫人の恋人」見た?木樵の胸毛のところをこうやってくすぐって目をさまさせるんだ(と手真似をする)

和子 いやねえ。(笑)

若尾 胸毛って三十位から出てくるの?

山本 さア日本人には少ないんじゃない?

和子 トニー・カーティスって三十位かしら?

雷蔵 どうも、話がおだやかでないね。和子ちゃんはトニー・カーティスが好きなの?

若尾 そうなのよ。このひと猛烈なファン!

和子 いやだわ・・・トニーが毛もくじゃらだったらゲンメツだわ。

若尾 去年、ウイリアム・ホールデンが日本へ来たでしょ。あの時、私、握手したのよ。この辺まで(と手の甲をさして)毛なのね。

山本 外国人としては普通よ。

石浜 笠(笠智衆さんのこと)さんって右腕が毛だらけで左腕に毛がないんだよ。

伏見 ほんとかい。当てにならないナ。そんな人っているかい。

石浜 それが本当なんだ。

山本 ウイリアム・ホールデンっていいわね。あたたかい感じね。

若尾 地味でね。私も大好き!

雷蔵 大体、男性のどういう処に魅力を感じるんですか?その肉体的な意味でね。

山本 サア・・・?精神的なものを全然切りはなして考えるっていうことは、むずかしいんじゃないかしら?

若尾 私はね、堂々とした感じ、男らしい体の動かし方ね、体がモリモリしているから魅力的だなんていうことはないわ。

石浜 そうか、それを聞いとけば、これから大いにその方に努めましょう。(笑)

若尾 そして適度の誠実味と適度の不良性・・・ね。まじめで、少し図々しくて、明るくて、それが理想の男性ね。

和子 わかるわ。(とうなずく)

山本 適度の誠実味っていうけれど、あくまで誠実であって欲しいわ。

若尾 私のいうのは、なんていうのかな、いくら仕事熱心で、礼儀正しくても、コチコチじゃつまらないっていうことなのよ。

和子 賛成よ!トニーの魅力もそこにあるのよ。ワーッだ。(笑)

伏見 それじゃ今夜ここにいる男性のように、適度の不良性のもち合わせない人は落第か。(笑)

若尾 ジェームス・ディーンいいわねぇ。(とウットリしたような眼で天井を見上げる)

山本 若尾さんのジェームス・ディーン熱はもう有名ね。

雷蔵 大体、今夜のように、日本男児の代表のような男性三人も揃っているのに、さっきから外国人ばかりほめて、どうもよろしくない傾向だな。(笑)

伏見 雷蔵さん、三枚目やりたいと思いませんか?

雷蔵 三枚目?割合やってますね、三枚目のような役をここのところ三本やってます。

山本 そうかしら?そうでもないでしょう。

雷蔵 二枚目半というのをやってますよ。今やっているのもそういう傾向の役だし・・・。

伏見 僕も「羅生門の妖鬼」では坂田の金時というやつで三人が「春じゃもの春じゃもの」のいい続け。

雷蔵 僕の去年やった「綱渡り見世物侍」というのも三枚目。僕はお殿さんでおしっこするとこがあったよ。おまる(便器)までちゃんと写ったよ。おしっこ我慢するところアップで写ったよ。(笑)

和子 おしっこを我慢しているんじゃあんまり魅力的でもないわネ。(笑)

伏見 話がとうとう下におちましたね。これ以上喋ると京都側の男性は本当に三枚目にされちゃいそうだ。

石浜 美剣士がおしっこ我慢するんじゃ商売にさしつかえますよ。(笑)

和子 私ね、一番チビのくせに生意気に思われないかって思ってたんだけど、みんな面白いことばかりいってるのね。こんな座談会なら毎月出たいわ。

雷蔵 今日の座談会は、時代劇メンバーと現代劇メンバーがお互いに討論すると云うことだったけれど、結果はどうも男性軍が女性軍に喋り負かされ感じになったね。われわれはいつも京都で暮しているんだから、東京に出た時には、今夜のような機会をつくって、大いに東京側の現代劇の俳優さんと語り合うようにしたいね。

伏見 いいですね。是非また、大いに語り合いましょう。

若尾 賛成だわ。

(月刊平凡56年3月号より)