薫の君・匂の宮
二人の貴公子の青春対談

光源氏の親子を演ることになる長谷川
ただの魚色家にはしたくない雷蔵

長谷川 今度は「源氏物語」の中の“宇治十帖”を映画化するのだけれど、浮舟という女性をヒロインにして衣笠先生が、自由に脚本化されているいわばオリジナルものだね。ところで僕の演る薫の君は、一人の女性しか愛さず、結婚するまでは体の関係を結びたくないという大変な理想主義者。今のドライな青年には一寸わかりにくい人物だろうな。損な役だよ。

雷蔵 そうですね。僕の演る皇子匂の宮は、薫の君とは対照的な快楽主義者のように描かれていますが、表面だけでいえば今の世の中の極あたり前な人間、“ザラ”にあるタイプですね。だから女から女へ、異った官能の楽しみを漁り歩く匂の宮を下手にやると、ただ軟派の不良にしか見えない
恐れがあると思うんです。それではつまらないから単なる女好きではなく、男と女−この何とも不思議な関係に生れる楽しみを味わうことを無上の喜こびとしている男を表現したいと思うんです。

長谷川 男と女−この何とも不思議な関係なんて、雷蔵君まだ子供のくせに、酸いも甘いも知りつくしたような事を云うじゃないか(笑)観るお客さんのイメージとしたら、私が雷蔵君の女を横どりするというのが普通でしょう。役柄の上でね。今まで雷蔵君はこんな下手をするとドンファン貴公子なんてやったことがないでしょう。それが逆になっているのだが、今の雷蔵君の言葉を聞いて安心したよ。(笑)

雷蔵 とにかく私が今まで演った役では、「新・平家物語」の清盛以来のいい役だと思っています。役者としては本当にやり甲斐のある面白い役です。

長谷川 僕は前の吉村監督の「源氏物語」では光源氏をやり、今度はその源氏の子薫の君、親子二代を演るわけだね。私はクラシックな役が合っていると思われるのか、王朝もののこういう役よく振りあてられるね。そういえば雷蔵君も「朱雀門」以来宮様の役が続くね。

雷蔵 ええ、「朱雀門」では一筋の恋に生きる帥の宮、今度はガラリ変ってドンファンな匂の宮ですが、どちらも高貴な皇族です。
山本さんの浮舟を中に、大先輩の長谷川さんを向うに廻して張り合うので多少気がひけますが、映画の上ではそんなことを考えず、徹底的に反撥し合う人間として一生懸命やりたいと思います。(公開当時のパンフレットより)