雷蔵さんと本郷さんとのお話は・・・

 

○雷蔵さんと本郷功次郎さんとは、人も知る公私ともに特に親しい間柄ですが、その本郷さんはこれまで時代劇を主に出演していたのが、現代劇を主にすることになり『続次郎長富士』を最後に、東京の仕事が多くなりますが、たまたま、セットで顔を合わせた雷蔵さんとの対談を一寸ご紹介しましょう。

雷蔵: サッソウとしているね。

本郷: いやァ!

雷蔵: ますますイタについて来た感じなのになア。惜しいね、君が現代劇へ行ってしまうのは・・・

本郷: ええ、ぼくだってある意味では、名残おしい気がしますが、やっぱりこの方がいいんだと思います。

雷蔵: どうして?

本郷: ぼくも最初は時代劇と現代劇と並行して勉強出来るだろうし、その方が、加速度的に伸びて行けるぼではないかと、甘い考えでいましたが、近ごろやっと、それはむつかしいことだと解ってきたからです。

雷蔵: いや、ぼくはそう思わないな。時代劇、現代劇といっても、根本的な「演技」の点では同じなんだもの。

本郷: それは解ります。でも雷蔵さんのように、演技の基礎が出来ていてはじめていえることで、ぼくなんかのように、素人から俳優になった者は、やはり最初にどちらかをはっきり掴んでおかないと、結局両方のわるいところばかりが、身につくような気がしてならないんです。

雷蔵: そうかなア・・・。

本郷: それに、時代劇だと約束ごとを覚えるのが大変でしょう。演技の勉強プラスそれだと、いつまで経っても雷蔵さんを追い抜けない。

雷蔵: 追い抜かれてたまるもんか(笑)なるほど、それで現代劇をマスターしてから、また時々時代劇へ現われて、ぼくと勝負しようというんだな。

本郷: そうなんです。ぼくの理想は、雷蔵さんが、時代劇を主にやってられて、時々現代劇の屋新作に出られるように丁度その逆を行きたいのです。つまり、東の雷蔵になることなんです。

雷蔵: よろしい、とにかく、ぼくがいくらいったところで、会社の方針なんだから仕方がないんだから。しっかりやってらっしゃい。といっても、まだ「続次郎長富士」でたっぷり一ヶ月は、時代劇の名残が惜しめるんだから、これも有終の美をなすんだな。

本郷: ええ、そりゃァ。ぼくも時代劇で三尺物だけはやっていなかったのが、それと今度のように飛び切りいい役が当って全然ゴキゲンなんですよ。行動派のドライボーイ的な役で、しかもあばれまわるんですから・・・。

雷蔵: 君の地で行けるようなもんだな(笑)

本郷: メチャメチャに暴れますよ。

雷蔵: ぼくも七五郎との立回りがなくてよかったな。そんなに張り切ってあばれられたら、キズだらけにされてしまう(笑)

本郷: ほんとですね。

雷蔵: カラミ(斬られ役)の連中に注意しておこう。傷害保険に入っておけって・・・。(笑)

本郷: 雷蔵さんの役も、一度やりたいようないい役だな。いい場面だけ顔を出して、さらって行くんだから。

雷蔵: いい気なもんだよ。長谷川先生をつかまえて、おい「次郎長」と呼び捨てなんだからな。とにかく偉いんだからね、代官は・

本郷: 根上さんのスゴイ殺し屋に斬られたかと思ったら、逆に斬っている・・・。もうけ役ですね。

雷蔵: ギャラも沢山貰えるし(笑)

本郷: 今だからいいますが、ぼく最初「濡れ髪三度笠」で、初めてお部屋へ挨拶に行った時、雷蔵さんって何だかむつかしそうなコワイ人の感じを受けましたね。

雷蔵: え?それは初耳だね。ぼくはぼくで、何だかコワイ顔した大きい奴が入って来よったな(笑)と、内心ギョッとしたんだが・・・。

本郷: ぼくはどうも、緊張するとコワイ顔になってしまうらしいです。ですから「濡れ髪−」の撮影では、雷蔵さんが軽妙な演技をされるたびに、ますますコチンコチンになっちゃって困ったな。次の「浮かれ三度笠」では、演技的にも馴れ、雷蔵さんの気心も解ってきて、ずっと楽にやれましたけれど。

雷蔵: ぼくも最初は、何と不器用な役者だなと思った(笑)

本郷: でも全く夢のようですね。一年前のぼくと今を考えると。時々、いまだに百円札一枚だけしか懐に持っていないような錯覚におちいることがあります。

雷蔵: いいことだよ、いつまでもその頃のことを忘れないで、謙虚な気持ちでいるということが大切だね。

本郷: ええ、忘れません。雷蔵さんをはじめみなさんにいろいろお世話になったことも。

雷蔵: 酔っぱらってもね(笑)

本郷: もちろんです(笑)