女形がよく似合う 

 信長では線が細すぎた

錦之助: オイ、このごろ、さっぱり誘いに来ないが、恋人でも出来たのか。

忙しくて忙しくて

雷蔵: そうなんだとうれしいが、撮影追い回されてヨ。『蛇姫様』『若き日の信長』『お嬢吉三』それが終れば『好色一代男』と、このところ恋人どころじゃないヨ。

錦之助: よし、そんなら許してつかわす。ところで君の問題作『炎上』を、この間わざわざ場末の館まで出かけて見てきたが、よかったヨ。

雷蔵: そうか、ほめてつかわす。

錦之助: 『蛇姫様』も見たが、君は女形がよく似合うぜ。

雷蔵: うーん、どうしたものか、このところ『弁天小僧』『蛇姫様』『お嬢吉三』と女形続きで困ってるヨ。女形は君のほうが色気があっていいヨ。

錦之助: ところが僕は、女形ものは大きらいだネ。ゾッとするヨ。ところで『若き日の信長』もう撮り終るころだろう。

雷蔵: アア、もう峠は見えてる。君も信長を撮ると聞いていたので、競作出来ると張切っていたが、延期したらしいナ。恐れをなしたナ。

錦之助: バカいえ、君の信長に負けてたまるけえ。会社の方針で延びたんだが、企画は捨ててないヨ。君の信長を見てから、わるい見本を見せてもらってから、ゆっくり撮るヨ。

雷蔵: しかし、信長をやっていて、つくづく感じたことなんだが、信長という人物は粗野で乱暴で行動的青年というのだが、君でも僕でも都会人的で線が細い。つまり肉体的条件が伴わないので、ミス・キャストだと思ったネ。

錦之助: うん、そうかも知れないナ。僕も前作では線の弱さが出て失敗したからネ。