来年は念願の西鶴ものを

 大映時代劇の人気スター市川雷蔵は、映画入り以来、いま撮影中の『弁天小僧』でちょうど主演五十本になるという。一口に五十本というが、外国ではたしかジャン・ギャバンが五十本目ぐらいで、やはり日本映画界の製作本数の多いことを再認識させる。それはさておき、雷蔵は『炎上』で好演してから、演技派としての道を開いた。彼は最近の心境をつぎのように語っている。

 「私も映画入りした当時は、反省する余裕もなく過しました。だが最近になって『炎上』を演ってから、振返るだけの余裕をもてるようになったことは、芸の上にもプラスになったと思います。映画企業はいくらスター一人が好演しても、興行的に左右される場合が多く、その点特に現代劇はむつかしいですね。例の『炎上』が好評だったので現代劇にも出よ、というファンの要望が強いのですが、『炎上』の役は同じ現代劇でも、特殊な役柄でした。だから私は時代劇スターとして育ったので、今後もやはり時代劇を主としてやってゆきたいと思います。それに来年中には念願の西鶴『好色一代男』をぜひやりたいと考えています。そして来年は一カ月ばかり暇を作り、アメリカへ行って向うの映画の勉強をしたい」

(スポーツニッポン  11/22/58 )