雷蔵さんありがとう

大映京都の宣伝部でとられた若尾ちゃん。自然光の使い方がうまいとほめられました

 私は京都作品に、あまり出ておりませんので、雷蔵さんとは残念ながら、一度も御一緒にお仕事をしたことがありませんので、したしく、お話しする機会もありませんでした。

 はじめてお会いしたのは、昨年東京で撮った「薔薇いくたび」の時、セットにお入りになる僅かな時間に、紹介をされて、一寸御挨拶を交した時です。その時の第一印象は、大変物静かな英国紳士だなあと思ったことです。ちょうど私達が子供の頃読んだ、童話に出て来るイギリスの貴公子を目のあたりに見るような気持ちがいたしました。ひと言、ふた言交したお言葉の中にもウィットに富んだ。何だかはつらつとした物を感じ、そして優美な物腰には女の私の顔が赤くなる思いでした。

 その後、私がお仕事で京都に参りました時、偶然宣伝部で雷蔵さんにお会いしました時、いきなり私にカメラのモデルになって欲しいといわれ、スチールブックをみている私を撮影して下さいました。

 その時、私は「雷蔵さんうつっているの?」なんて冷やかしましたら、「大丈夫、大丈夫ゼッタイのゲイジュツシャシンや」といわれて、やさしい童顔をほころばせていらっしゃいました。

 それから間もなく、その時の写真がある週刊誌に掲載されましたが、何とすばらしい写真ではありませんか。実物以上にきれいにとって下さった雷蔵さん、あの時の失言ゴメンナサイ。それからホントにどうもありがとう。

(56年3月発行平凡・スタアグラフ「市川雷蔵集」より)