市川雷蔵の魅力と私だけの思い出

この四月初めに雷蔵さんの養父市川寿海丈が亡くなったが(昭和46年4月3日逝去、明治19年7月12日生まれで享年84歳。)、在りし日の舞台写真やテレビのインタビューに出演していた頃の寿海さんを改めて見ていて、とても雷蔵さんと寿海さんがよく似ているということを発見した。

おふたりが健在の時にはあまりそれを意識しなかったが、きゃしゃな身体つき、細おもての容貌から気さくな語りくちまで、もし雷蔵さんが長生きして年をとったとしたら、寿海丈そっくりの品のよい粋なお年寄りになるのではないかと思う。

寿海丈は84歳、歌舞伎の世界で功成り名遂げての大往生であるから天命といってよいが、雷蔵さんは30代の若さでの急逝だから、いまだに本当に悔しいという気持ちが消えない。テレビという便利な器械のおかげで、時おり昔の雷蔵映画が放映されるのでなおさらいけない。そんな雷蔵さんの映画を見ていると、映画界が不振だということが信じられない。

テレビドラマなんかとはくらべものにならないくらいに、雷蔵さん主演の映画が面白いからである。そしてその面白さを支えている一番の理由は、市川雷蔵というさわやかな二枚目スターの存在であったといってよいように思う。

雷蔵さんが画面に出てくると、世話物であれ、股旅物であれ、殿中物であれ、とにかく颯爽としていて胸のすくような小気味よさを感じる。関西育ちでいながら、江戸前の意気のよさが画面いっぱいに躍動するのだから、見ているだけで楽しい役者ぶりなのである。

画面に姿を現わすだけで、こういった華やかさを放出する俳優さんが最近は少なくなったせいか、よけいにそれを感じる。映画館に客足が向かなくなったのも、ひとつには雷蔵さんのような魅力のある俳優がいなくなったことも、大きく影響しているのではないかと思う。映画界の怠慢である。

雷蔵さんはそんな魅力を持つ俳優さんであったが、素顔の雷蔵さんも画面の中と同じようにいつも颯爽としていた。朗らかでユーモアに富み、雷蔵さんの周囲はいつも笑いが絶えなかったが、またひょうきんな毒舌も有名で、ずばり人を斬るといった天衣無縫の王者ぶりを見せる風格があったが、それでいていつもその眼差しの底に、相手をいたわる思いやりの露を宿しているという人でもあった。

だから毒舌を浴びせられても、誰も怒る人はいなかった。雷蔵さんの人徳というものだろうか。

誰からも好かれ、愛されていた。お世辞ではなく本当にそうであった。