●ふしぎ

 世に名優といわれるほどの役者は、せりふ回しに独自のものがあって、声色屋(こわいろや)などによって、それがやや誇張されて喧伝されてきた。

 雷蔵にようやく“雷蔵ぶし”らしきものが、ほのかにではあるができあがりつつあり、ファンにとっては、それがたまらぬ魅力となっており、それは狂四郎にもっとも顕著に現われているようだ。そんな彼の、これまでの作品をふり返って見るとふしぎなことに『炎上』『ぼんち』『破戒』と現代劇ばかりが浮んでくる。これは一体どうしたことなのだろうか。

 

 なにも、現代劇がものめずらしいからではなく、作品に比例して、彼の演技もすばらしい。素顔の雷蔵は、そんじょそこらのサラリーマンの群れの中に入れても、けっして目立たない。実に平凡な顔をしているのが、いざ、メーキャップをすると、がぜん生彩を放ってくる。水を得た魚。さらに、役によって、どのような変貌をもして見せる。つまり、生まれながらの“やくしゃ”なのである。