久しぶりだね

雷蔵 千代ちゃん、こんにちは・・・。
千代之介 やあいらっしゃい、雷ちゃんとはなかなかお逢いする機会がないですな。
雷蔵 ホントですね。どういうんのか、錦ちゃんとはよく逢うんやけれど、たしかに千代ちゃんとは久しぶ
りですね。
千代之介 名前がいつかは来ぞう(市川雷蔵)。いつおいでになるかと、お待ちしてました。(笑)
雷蔵 いつもながらうまいシャレですね。(部屋を見廻して)しかし、東映さんは凄いもんやな、錦ちゃんの
部屋といい、またこの部屋といいまるでホテルや(笑)
千代之介 ええ、こちらに見えるのが東千代之介さんのお部屋で、これが東洋一を誇る俳優会館というわけ
です。ご案内いたしましょうか。(笑)
雷蔵 見学が多いんでしょ、東映さんは・・・。門の入口を見ておどろいた。いつもあんなにいるんですか。
千代之介 来てるね。朝から暗くなるまで。中へ入れないけれどスタアでもだれでも一度は門をくぐるからね。
雷蔵 必ず顔だけは見られるわけやね。ウチも『日蓮と蒙古大襲来』の時なンか、信者の人が毎日入れ
かわり立ちかわり見えましてね、日蓮役の長谷川先生を見かけますが合掌してスゴイんですわ。(笑)
千代之介 で長谷川先生は・・・?
雷蔵 やっぱり、ちゃんと合掌して、挨拶してるンや。(笑)先生、どない気持ですか?聞きましたらな、エライ良い
気持や。(笑)
千代之介 見学者が毎日でしょ、だから日蓮ですよ。(笑)毎日連なって来る、略しまして日蓮・・・(笑)
雷蔵 ふーん、なるほどね。うまいシャレや。こら、うっかり千代ちゃんとはものも喋べれんでえ。(笑)ところで、
今何を撮っているんですか?
千代之介 吉川英治先生原作の『隠密七生記』が終って、いまは『自雷也小判』にはいってます。ひばりちゃんとこの
前の『隠密』のときも、こんどの『自雷也』でも一緒でね。雷蔵さんは・・・?
雷蔵 ぼくは『濡れ髪剣法』があがって『弁天小僧』。
千代之介 でも、雷蔵さんは偉いですよ。『炎上』はびっくりしましたね。よく思い切ってあそこまでやれたと思ってね。
雷蔵 坊主アタマ、ドモリ、学生、放火・・・(笑)会社もよくやらせてくれましたわ(笑)でもね、ぼくは考えたんですわ
どうせ現代劇に出るんならな、変った出かたせなあかん。
千代之介 ちょいと変りすぎた(笑)
雷蔵 おかげでまだ坊主頭ですがね。坊主になったらなったでさっぱりしていい。とくに夏のうちはず分涼しくて
助かりましたよ。(笑)
千代之介 ボクも坊主になろうかな。でも大変だったでしょう。
雷蔵 ええ難しいと思いましたね、。立ったり坐ったりするところが、どうしても時代劇の習慣があってね、とても
気になっちゃう・・・習慣というものはコワイですね。
千代之介 ぼくも現代劇に出てみて、そう思いましたね。でも、何でもやってみるのはいいことですよ。
雷蔵 ぼくは思うんです。これからの俳優は時代劇も現代劇も両方やれなければあかん、向うの俳優は多いで
しょ、映画と舞台でも交流があってね。
千代之介 それはホントですね。