やりたい弁天小僧

千代之介 雷ちゃんの弁天小僧はきれいだろうな。
雷蔵  いやいや
千代之介 『弁天小僧』は舞台でやったことあるの?
雷蔵  ないです。雷蔵襲名披露のときに、赤星十三はやったことあるんやけど。
千代之介 胸がスーッとするだろうと思うな。あれをやると、
雷蔵 そら、もう。(笑)
千代之介 (フシをつけて・・・)知らざあ云って聞かせやしょう、浜の真砂と五右衛門が・・・
雷蔵 (うけて)歌に残せし盗人の、種はつきねえ七里ケ浜
二人 (声をあわせて)以前を云やあ江ノ島で、年季勤めの稚児ケ淵、名さえ由縁の弁天小僧、菊之助たあ俺の
ことさ。
千代之介 ああ、いい気持だ。つくづく雷蔵さんがうらやましい。(笑)
雷蔵 うまくやれるかどうか、失敗したらわらわれますからネ。
千代之介 出来てあたり前、歌舞伎出身のツライところです。
雷蔵 映画は舞台と違うし、まあ、何とか一生けんめいやってみますわ。
千代之介 さぞかし、歯ぎれのいい弁天小僧が誕生することでしょう。今や、演技派だから、雷蔵さんは。
雷蔵 先輩にそんなこといわれたら、あかんワ。(笑)監督はベテランの伊藤大輔先生やから、先生におまかせし
て一生けんめいやってみるつもりです。
千代之介 で、その『弁天小僧』は、白浪五人男が勢ぞろいするんでしょう。
雷蔵 そら、します。でないと浜松屋の芝居がでけへん。
千代之介 ぼくも一度そういうのをやってみたいですよ。
雷蔵 なんといっても、サワリの場面ですからね。それにね、もう一つ嬉しいのは映画へ入って、これで五十本に
なるんですよ。早いもんですね。
千代之介 ほう、もうそんなに。ぼくはどの位になるのかな、勘定したことないから・・・
雷蔵 ぼくかて、自分でかぞえたことないです。宣伝部の人が感情してくれたんでしょう、たぶん。
千代之介 “金婚式”ですってね。(笑)
雷蔵 この上は、幾久しう添い遂げる所存にござります。(笑)
千代之介 映画とね。
雷蔵 映画入りは千代ちゃんのほうが、ぼくより半年ほど早いのやから。出演本数は恐らくもっと多いのじゃない
ですか。。
千代之介 さっそく、しらべておきましょう?なにしろ東映には三百本というレコードを持つ、市川右太衛門先生がいま
すからね。とてもとても、貧乏人の銭勘定みたいなもんです。(笑)
雷蔵 立派なもんやな。