愉しくもえる適役問答?

雷蔵 勉強といえば、今度仕事にかかる前に溝口先生から云われたことに「君は幸運にも大した苦労もなしに、いわゆる映画スターになれたが、このスターの地位をいつまで確保して行くのには今後のたえざる勉強が必要だ。こんどのこの映画に出たのを機会に、もう一度最初から出直す気持で、どうすればそう出来るか、よく考えて勉強して行くことだね。その一番いいお手本は長谷川君だ。あの人だけは、自分を生かす事について絶えず勉強しているから、三十年一日の如く、第一線スターの地位からゆるぎないのだよ」

成年 それは、どうも・・・。

雷蔵 いや、あんたを褒めているんじゃありませんから。(笑声)本当だと思いましたね。とにかく溝口先生は、長谷川さんのことになるとベタ褒めです。

成年 そのくせ、おやじは、僕にはあまり云わないんだな。今度も京都へ来る前におやじからいわれたことは「感情とか人間が出来上るように、ただ自分の思う通りにやって来い時忠というのは、これから少年期より青年になるという発育盛りの感じだから、それを出すように。役自体の性格を理解して、それになりきらないと駄目だ。それ以外のことはすべて溝口先生におまかせするんだよ」といっただけです。僕は天然色も、時代劇の今度がはじめてなんですが・・・。

久我 溝口先生とは?

成年 僕が八つくらいの時「芸道一代男」で、お寺の小坊主になって出して貰ったことがありますし、去年「近松物語」の時にも父について京都へ来ている間、よくお逢いしてましたから、よく知っているといえば云えますけれど、さて仕事となると又別ですからね。遠慮なく鍛えて貰う覚悟ですが・・・。

雷蔵 久我さんは「雪夫人絵図」と「噂の女」に出てられるし、こと溝口組に関しては、僕が一番後輩なんだな。