血統を地でゆく久我ちゃん!

成年 時子といえば、平家滅亡の際にも、安徳天皇を敵の手に渡さないで、立派な最期を遂げた人だけれど、清盛があれだけのことがやれたのも、この賢夫人の内助の功が大変力になったということですからね、清盛もいい奥さんを貰ったものですよ。

雷蔵 そこはやっぱり、清盛に女性を見る眼があったのだな。

久我 どうもすみません(笑声)

雷蔵 しかし、一面から云えば、時子の方にも男性を見る眼があったのですよ。その頃の清盛と云えば、まだ貧乏な武家の息子で、風采だって、パッとしなかったのだが、その一見価値のない若者に、後年の清盛を見抜いていたのだから。しかし、この恋愛は、最初は清盛のほうから見染めたのだろうね。

成年 あの時代ってね、結婚するまでは、男の方から毎夜女の方へ通うんだそうですね。原作を読むと、清盛は一週間くらい毎晩のように時子の家へ通って行くと、時子の部屋だけに燈がボーッとともっているのが見える、という情景が実にロマンチックに描かれてあるけれど・・・。

雷蔵 だから、やっぱり最初は清盛が惚れ、時子はそれにほだされたのだろうね。きっと清盛ほどは思ってなかったにちがいない。

久我 いえ、そうでもなかったのじゃありません?

雷蔵 そうでしたか、それはどうも・・・(笑声)

成年 結局、両方とも一眼惚れというところなんだろうな。

雷蔵 では、誰も異存がないのならそういうことにしておきましょう。(笑声)・・・しかし、成年さんはなかなか原作を読んでいるらしいね。

成年 ええ、十九巻まで読みました。

雷蔵 もっとも、僕だって映画に出るなんて夢にも考えないで、以前から愛読して来たのだけれど、それは別として、一体小説が映画化される場合、その原作を読んでおいた方がいいという人と、読まないで脚本一本で行った方がいいという人と二派あるんだけれど、どちらがいいのかな。

久我 難しい問題ですね。でも今度の場合なんかどうでしょうか。私は溝口先生から、まず当時の歴史をよく知っていなくては駄目だと云われて、原作は勿論、いろいろと歴史の本を読んで、大変面白く、且つためになったと思いますわ。殊に個人的なことですが、私の先祖がこの時代にもお公卿さんとして、随分活躍していたことが初めて判って、一層面白かった訳です。

成年 なるほど、そういえば久我さんのお家柄は古いんですな。

久我 清和天皇から出ていて、私で、三十六代目になるんだそうです。

雷蔵 清和源氏なんですね。

久我 ええ、源氏の末孫みたいなものですけれど、源氏も末の世になると、意気地がなくなりましたわ。

成年 何故?

久我 実は、以前に、ある雑誌の写真を撮るというので、立派な鎧を着せてもらったことがあるんです。天晴れ大将になった気持で、とてもうれしくなっちゃって、さて床机から立ち上ろうとしたら、それが立てないんです。とても重くって。

成年 なるほど、弱い源氏だ(笑声)

久我 昔の人って、よくもまあこんな重いものを着て、戦争なんて出来たものだなあと、変なところで感心しましたが、雷蔵さんなんかセットで鎧を着てらして重くありません?

雷蔵 重いには重いですがね。動けなかったら商売になりませんから(笑声)あれには多少コツがあるんです。まるで身体中にギブス繃帯をしたようなものですからね。もっとも、昔といったって、一軍の将というのは、床机に坐るか、馬に乗った切りで、後の方からヤアヤアと指図ばかりしていたんだから敗軍の時でもない限り、そうバタバタ動いてなかったのでしょう。ところで、そんな具合だったら、久我さん、ビフテキを食べるとよろしいな。

久我 なんですか、ビフテキ?