雷蔵さんのこと

 市川雷蔵さんは、今年の八月ですでに満三年を送られた私たちの先輩ですが、『弥太郎笠』で初めてお相手をさせていただきました。そのあと『万五郎天狗』に引続き、いま、『稲妻街道』で三度目の共演をさせていただいております。

  まだ冗談を云い合ったりするほどではありませんが、雷蔵さんはとても細かい所に気のつく方で、セットでお会いすると、早速衣裳の着付けやメーキャップなど親切にいちいち教えてくださいます。だからご一緒にお仕事をしていると、何かとてもいい刺激をうけるような気がして、会社でお会いするのが楽しみです。

 と同時に、雷蔵さんは、大へんお仕事に熱心な方で、ライト待ちのときなども、いつも座ったままじっと考え込んでいらっしゃるようです。ですから、横からついうっかりお話をさしはさむのも何だか悪いような気がして、つとめてご遠慮申し上げているくらいです。初めて共演させていただいて、まず最初に感心させられたことは、真剣そのものともいうべき雷蔵さんの演技に対するまじめな態度でした。

 私なども、大いに見習わなければと、雷蔵さんを見ては、時々反省いたしております。

(よ志哉創刊号より)