◆清盛は革命児◆

中村: 頭の話になったけど、義経の小さかった牛若丸時代には
本当はあんな稚児髷はなかったそうだ。みんな下髪だって・・・。
本格的に調べるとね。しかし、さげ髪であまり似合わないのもなんだから、結局稚児髷でやることになったんだけど・・・。清盛はどうなの?

市川: ほとんど烏帽子をきている。このまま半かつらでいったほうがいいらしいんだが、ぼくは目がさがっているでしょう。だから羽二重で目を吊らないと駄目なんや。

中村: 嘉男さん(雷蔵さんの本名)は目を吊るより首でも吊ったほうが似合うな!(笑)

市川: こら!(笑)

中村: 源氏と平家は喧嘩することにきまってるんだから・・・。(笑)

市川: どっちが強いかな。歴史上ではともかくぼくは常盤御前に命乞いをされて、牛若丸を助けてやるわけだからね。こんな牛若丸なら殺してもいいんだがな。(笑) わしが本当の清盛なら、きみを殺している。(笑)

中村: よーし、その前におれは清盛を投げ飛ばしてやる。(とまたも組みつきます)源平の争いだからしょうがないよ。(笑)嘉男さんは源氏と平家とどっちが好き?

市川: (小さな声で)本当のことを云うとね、ぼくは子供のときから源氏が好きだった。(笑)

中村: 今までの歴史の書き方では源氏に同情的だものね。

市川: 書かれた時代によって、歴史はゆがめられて書かれていると思うんだ。清盛だって今までの歴史ではああいうふうに悪者に印象づけられているけど「新・平家物語」を読むとなかなかの革命児やし、偉いと思うな。

中村: だからね、「源義経」なんか読んでいると清盛が憎くなるし、「新・平家物語」を読むと清盛が好きになっちゃうんだ。

市川: どうも有難う。(笑)

中村: きみは若き日の清盛、ぼくは若き日の義経・・・。

市川: お互いに一生懸命やりましょう。

◆仲よしの喧嘩◆

中村: 話は違うけど、嘉男さん名前を変えたんだって?

市川: うん。姓名判断で吉哉に変えた。

中村: あまり馬鹿だから、名前を変えれば少しは利口になると考えたんだろう。(笑)

市川: この野郎!(笑)だけど、錦ちゃんとはよく喧嘩するな。(笑)

中村: 仲がいいからかもしれないね。

市川: そうかもしれん。そもそもこのお方様と初めてお会いしたのはどこだったかな。

中村: 大阪の歌舞伎座だよ。

市川: 五年くらい前かな。まだ十代だった。錦ちゃんとはいろんな話があるね。

中村: そうでもないさ。

市川: この前のオリンピックのときの話なんか面白いな。

中村: ああ、あの時はくやしかった。

市川: ぼくが東京の歌舞伎座に出ていて、あんたの家にずーっといた。用心棒で・・・。(笑)(「平凡」55年8月号より)