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「朝日新聞」07/16/14

 

 永遠の二枚目への恋は終わらない。「眠狂四郎」などで知られる映画黄金期の大スター、市川雷蔵。そのデビュー60周年、没後45周年にあたる今年の夏、代表作の特集が各地で催される。当時からのファンだけでなく、初めて見る人をもときめかす色気とは ー。37歳の若さで逝った雷蔵の命日は17日だ。

 その男には、一抹の悲哀がにじむ。すがすがしい気品がある。市川雷蔵。ニヒルで陰惨な市井無頼の徒を演じるかと思えば、軽やかな色男、文芸的映画の陰影深い主人公をも演じる。

 そんな雷蔵の魅力を伝えようと、京都みなみ会館は命日にあたるこの季節、20年以上前から「市川雷蔵映画祭」を続けてきた。祇園祭と重なり、全国からファンが見にくる。

 今回は「お姫様と雷蔵」シリーズを軸に、明るく楽しいカラー作品を中心に12作。21日まで上映する。

 「時代が変わっても新鮮な輝きをもつ大スター。見事な男っぷりですよね」。そう話す吉田由利香館長(26)も、館長になるまでは雷蔵の名前も知らなかった。だが、熱いファンに話を聞き、「すごい俳優がいたんだ」。おすすめは何と言っても『薄桜記』(1959年)だろう。片腕となり、しかも足に傷を負った丹下典膳(雷蔵)が雪中、地をはい回りながら繰り出す三段剣法の立ち回りは、悲壮美の極致だ。歌って踊る『初春狸御殿』(同年)は、対照的に朗らかな魅力を放つ。

 

 一方、東京・角川シネマ新宿で8月9日から始まる「雷蔵祭 初恋」は初めてデジタル化した初期6作を含め、一挙46作品を特集する。勝新太郎と共演したデビュー作『花の白虎隊』(54年)など初々しい色男ぶりが見られる。

 「アイドルっぽいんですよ」。配給のKADOKAWAで営業を担当する原田就は初期の『いろは囃子』などを見て、そう思う。当時、みずみずしい雷蔵に恋したファンが、いまもおめかしをして映画館にくる。初恋の人に会うように。

 「雷蔵好み」を書いた作家村松友視は言う。「雷蔵は、自分の色に役を染めるのではなく、その役の色に自分を染めた。だから、映画の役が際立ち、時々の流行を超えて人気を持ち続けるのだと思う」

 いずれの企画も、見ればコロリとファンになる“雷蔵殺法”をごらんに入れよう、ということだろう。

 京都の企画は1300円。命日の17日は千円。会館(075-661-3993)。東京の企画「初恋」は各地で順次上映。大阪・テアトル梅田(06-6359-1080)では9月の予定だ。 (河合真美江)