戦国期の忍者の活躍と悲哀を描いた大映京都作品『忍びの者』は、このほど百地砦のセットから撮影を開始した。

 この作品は、独立プロの山本薩夫監督が珍しくメガホンをとったもので、出演者も市川雷蔵、伊藤雄之助、岸田今日子、城健三朗と顔ぶれをそろえている。

 

 第五ステージには、ヘイを除いた百地砦の内部が、複雑な仕掛けで建てこまれている。これは忍者組織の上忍、下忍のうちでいわゆる元締め格の上忍に属する土豪、百地三太夫の住居であるが、有名な京都の“二条陣屋”や現存する伊賀、甲賀の忍術屋敷などを歴訪して、綿密に研究を重ねた結果設計されただけに、隠しトビラ、隠しバシゴ、おとし穴などが実に巧妙にセッティングされ、これらの仕掛けが、本編中重要な役割を演ずる。

 さて、撮影は、下忍、石川五右衛門の雷蔵が、三太夫の部屋に呼ばれ、織田信長暗殺の計画をつげるところから始まった。十畳敷きほどの簡素な板ばりの部屋の壁近くに、ヨロイビツがおかれ、その上に、忍者特有の無ぞりの刀がかけられている。これを背に、白髪の総髪姿の三太夫・伊藤雄之助が端然と座り、その前に雷蔵・五右衛門がかしこまっている。雷蔵の扮装は、蓬髪のカズラ、質素な木綿の野良着に荒ナワの帯というもの。

 「信長は、さきに、真言の寺を襲い信徒を皆殺しにした。われらの忍術は、遠く真言修験僧を開祖とするもの。宗門を敵とする信長は、またわれらの敵だ。これ以上、あいつの勢力が強くならぬうちに芽はつみ取らねばならぬ」独得なふとい声で、雄之助が口を切る。何も知らぬ雷蔵・五右衛門は、意外な三太夫のことばに目を見張って、そのあとにつづくことばを待つ。

 山本監督は、ささやきあうふたりの顔だけを浮かび上がらせ、三メートルの俯瞰台上から、このカットをとらえる。つぎはこの部屋で三百六十度カメラを回転させるカットだか「なんだかまだ調子が出ないな」と、たったひとりで大映京撮へ乗り込んで来た山本監督はボヤきながらも、初日から精力的な演出をつづけていた。(デイリースポーツ・大阪版)

   

 

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