股旅もの


 

 

 

アウトロー活劇としての股旅映画

 

 目の奥にまた一つ新しい卒塔婆が見えるんだ

『ひとり狼』の辿り着いた場所

 渡世人追分の伊三蔵は腕も強いが足も速い、人呼んで「人斬り伊三」。筋目の通った一匹狼が、背負った業と渡世の道を貫き通して恋仇を斬る!

 路頭に迷った博打打ちの父と息子の伊三蔵は、上田家に奉公人として引き取られたが、数年後、伊三蔵は娘・由乃(小川真由美)と恋仲になってしまい、家を追われて渡世人となった。

 久しぶりに故郷に戻った伊三蔵は、自分の息子と由乃に会うが、由乃のかっての許婚とその郎党たちは、由乃と子供を人質に取り卑怯な方法で、伊三蔵を討ち取ろうとする。刃を突き付けられ、父親を知らない子供が伊三蔵に助けを求める。「よく見ろ!これが人間の屑のするこった!」やがて、傷ついた伊三蔵の反撃が始まる。『ひとり狼』は、村上元三の原作を池広一夫が映画化した正統派股旅映画の傑作中の傑作だ。

 大映のマークの後、旅をする伊三蔵の後ろ姿に『ひとり狼』のタイトル。渡辺岳夫の渋い音楽が観客を渡世の世界に誘う。原作にはない新米渡世人・半次(長谷川明男)に孫八(長門勇)が仁義の切り方、一家への草鞋の脱ぎ方、めしの食い方、柏布団での寝方、博打の打ち方など、渡世人の作法を教えながら、渡世の世界で一目置かれている追分の伊三蔵がいかに凄い渡世人かを見せていく。その“人斬り伊三”と異名を持つ追分の伊三蔵を市川雷蔵が好演。本作を一つの到達点に、以降、股旅映画は新時代へと突入していく。(島本高雄)

(11/20/02発行 時代劇マガジンVol.1より)

 

   

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