一本立て競争に突入しお粗末な即席映画が続出している最近の映画界ですが、それだけに力の入った作品はよけい大きく目立つというものです。

 大映京都で撮影中の『日蓮と蒙古大襲来』も、スケールの大きなことで話題を呼んでいる秋の大作の一つですが、そのステージから拾った話題をお伝えします。

 主役の日蓮上人になった長谷川一夫さんは、撮影前に身延の久遠寺で剃髪し、兵隊生活以来十四年ぶりで丸坊主になりましたが、ちょうど暑い盛りでもあり、サッパリして涼しいでしょうときくと、長谷川さんいわくには「とんでもない」という話です。

 なるほど、泳いだときなどはサッパリしていいけれど、ステージの中で何百キロものライトを直接頭の皮に当てられると、日射病ならぬ電射病にかかりそうな暑さだそうです。人一倍汗っかきの長谷川さんは、おかげで体中アセモだらけになってしまいました。

 ところで、この撮影が始まって以来、京都はもちろん、近くの都会から日蓮宗のお寺が主催する撮影所見学会がさかんに行われるようになりました。この人たちは神妙な顔つきでスタアたちの演技を眺めていますが、帰り際になると熱心な日蓮信者は長谷川さんに向って手を合せて拝んでゆきます。最初は気まり悪げだった長谷川さんもだんだん馴れるにしたがって、平気でこれを受けるようになりました。

大へんなロケ

 鳥取ロケーションは前後一週間にわたって行われましたが、そのクライマックスは有名な大砂丘の海岸で行われた蒙古軍の敵前上陸と迎え撃つ日本軍との激戦場面です。このため俳優二百名とエキストラ千五百名が動員されました。

 このあたりは水が一滴もないところですから、給水車を二台持ってきたり、井戸を掘ったりして供給にこれつとめました。それにもかかわらず、炎天の下、やけつくような砂の上での乱闘ですから、日射病で倒れた人が七十人もあり、その上怪我人が三十人も出て、三人の看護婦さんはてんてこまい。

 ことに戦闘のロケで、勝新太郎さん、梅若正二さんたちは日本軍の武将として大ヨロイをつけて終日駆けまわったのですからたまりません。胸はドキドキして、しまいにはゾクゾクと寒気がしてハキ気をもよおすという始末で、二人とも申し合わせたように「やはり戦争はいかんね」「戦争絶対反対だ」と、妙なところで意見が一致していました。

 鳥取ロケのエキストラは主に学生さんたちでしたが、エキストラずれしていなくて非常にいいと好評でした。この映画では大衆の効果が大事で、日蓮上人という人がそもそも大衆の宗教家ですから、上人が竜ノ口で首を斬られようとする場面などでもステージいっぱいにエキストラの群衆が溢れました。

 この人たちは普通の映画ではただ歩いたりすわったりしているだけなのですが、この時ばかりは渡辺邦男監督「いま、君たちの光である日蓮が斬られようとしているんじゃないか、君たちはじっとしてられないんだよ」と大声で激励したものですから、喜んだのはエキストラです。待ってましたとばかり、泣くやら叫ぶやらいささかオーバー気味の大熱演を展開。でも元来が日蓮宗信者は大なり小なりオーバーですからピッタリの雰囲気だったといえます。

刀がポッキリ三つに折れる

 この映画の大きな特色は特殊撮影がふんだんに使われるということで、神風台風の場面をはじめ、日蓮がさまざまな奇蹟をあらわす場面に効果が期待されています。特殊撮影ではありませんが、トリックのひとつに、竜ノ口法難の場面で日蓮を斬ろうとした田崎潤さんの刀が三つに折れて飛ぶところがあります。これは最初から刀を三つに切り、ビニールでつないでおき、折れ目に少量の火薬を仕掛けておくのです。電気を通すとバンと三つに折れて飛びます。ところが本番になって、あまりすごい音を立てて折れて飛んだので、刀を握っていた田崎さんはビックリしてひっくり返ってしまいました。

スタアの宗旨

 最後に、この映画に出ているスタアの宗旨を調べてみますと、長谷川一夫さん親子は日蓮宗、市川雷蔵さん、勝新太郎さんも同じくで、淡島千景さんは天台宗、梅若正二さんはクリスチャン、叶順子さんは無宗教という色分けですが、映画ではみな仲よく日蓮宗になってお題目を唱えています。