1955年4月24日(日)公開/2時間15分大映東京/白黒スタンダード

製作 永田雅一
監督 衣笠貞之助
原作 小山いと子(「主婦の友社」連載版)
脚本 衣笠貞之助・相良準
撮影 渡辺公夫
美術 柴田篤二
照明 柴田恒吉
録音 西井憲一
音楽 斎藤一郎
スチール 薫森良民
助監督 竹谷豊一郎
出演 根上淳(松島真一郎)、南田洋子(松島光子)、若尾文子(桐生弓子)、船越英二(市岡鶴夫)、長谷川一夫(山村御風)、京マチ子(野々宮幸子)、菅原謙二(芹沢五郎)、山本富士子(沢田道代)、北原義郎(福井譲)、矢島ひろ子(山村富子)、三益愛子(桐生よし江)、林成年(市岡松夫)、伏見和子(渡辺澄子)、勝新太郎(高倉明)、市川和子(市岡福子)、高松秀郎(柳定夫)
惹句 『大映創立以来の大壮挙東西オールスターが激しく争う恋愛巨篇』『小説に放送に全女性の人気をさらった波瀾万丈の恋愛物語が、東西オール・スター競演で絢爛の映画化』『この大壮挙東西オールスターが競演する恋愛巨篇』『受験番号一一七番 ただそれだけが あの美しい瞳をたずねるすべてだった

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★作 品 解 説★

 大映が創立以来初の試みとして、傘下に擁する東西の人気スタア十七人を一作品に登場せしめる画期的なものである。即ち、根上淳、若尾文子、北原義郎、南田洋子、菅原謙二、京マチ子、船越英二、高松英郎、矢島ひろ子、市川雷蔵、三益愛子、山本富士子、林成年、伏見和子、勝新太郎、市川和子、長谷川一夫、の花形スタアを、適材適所の役どころに付かせて、この種、映画に有り勝ちな顔見せ映画としてではなく、製作するものである。従って、原作も“主婦の友”に連載されて女性向に話題を呼んだ、小山いと子の問題作を選び、スタッフも強力メンバーに依って構成してある。

 即ち、製作永田雅一、原作上掲、脚色には衣笠貞之助、相良準が協同で当り、監督に又ベテラン衣笠貞之助が当っている。更に、撮影には渡辺公夫、音楽に斉藤一郎当てる等、万全を期している。主題歌作成はビクターが当った。

 内容は、旧き因習として、今も尚、現実に存続されている「あし入れ」結婚の悪習に、鋭くメスを入れ乍ら、波瀾万丈のメロドラマとして展開するものである。即ち、純潔の乙女が、試験結婚ともいうべき型に於いてある期間男の下に暮しその女性が不向きであった場合、貞操を破られたにも拘らず何の代償もなく、実家に帰される、矛盾に対して、激しく抵抗し乍ら、女性の幸福を探し求める主人公(若尾文子)に対して、理想の女性として、彼女を求める男(根上淳)の話を中心に、上述の豪華スタア陣が、貞操、恋愛、結婚の諸問題を追及する姿は、正に映画界空前の大作にふさわしいものである。

 尚、映画化が決定するやラジオ東京他、京都放送、静岡放送、ラジオ新潟、ラジオ山梨等の全国に亘る民間放送より連続ドラマとして全女性の共感をよんで絶賛を博している。(公開当時のパンフレットより)

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人物紹介

松島真一郎(根上淳)
 始めて会った時から、弓子をひたむきなまでに愛し続ける純情な青年。しかし彼女は名もつげずに彼の前から姿を消して行った。一度はあきらめて東南アジアへ出発するが、彼女との再会を信じている。
桐生弓子(若尾文子)
 受験番号117番、しかしただ一つの希望だった芸大の門は彼女には開かれなかった。そして足入れ結婚の犠牲となり、純潔を失った彼女だったが、心から真一郎を愛し、彼の面影を胸に秘めて淋しく暮して居る。
松島光子(南田洋子)
 真一郎の妹。弓子と一緒に芸大の試験を受け、巧くパスするが、弓子とは互いに名も知らぬまま別れ別れになってしまう。近代的な令嬢で、沢山のボーイフレンドにかこまれ、学校も途中で止めて、福井と結婚する。
桐生よし江(三益愛子)
 弓子の母。弓子の幸福を願って、彼女を市岡家へ嫁がせたのだったが、彼女が、真一郎を愛して居る事に気がつかない。
市岡鶴夫(船越英二)
 弓子を盲目的に愛し、一度は彼女をめとるが、彼女が真一郎を愛して居るのを知って、三日間の足入れで彼女を里へ追い返す。
市岡松夫(林成年)
 鶴夫の弟。封建的な家のしきたりや兄の無気力さに反対し、弓子を何かとかばってやる好青年。
市岡福子(市川和子)
 市岡家の末娘。お嫁に来た弓子びいきの明るく、快活な女学生。
山村御風(長谷川一夫)
 関西随一の日本舞踊の家元。妹の富子が、真一郎を慕っていることを知り、ヨーロッパ公演に旅立つ日、富子のことをくれぐれも真一郎に依頼する。
山村富子(矢島ひろ子)
 真一郎を心から愛しては居るが、彼の心が弓子にあるのを知って、あきらめ様とする。そして弓子に絶望を感じた彼を慰める快活で純情な令嬢。
山村素風(市川雷蔵)

 

  御風の高弟で、若手舞踊家随一のホープ。富子を慕って居るが、所詮とどかぬ恋とあきらめて居る。
芹沢五郎(菅原謙二)
 真一郎の親友で、時々議論の末彼となぐり合いをする行動派の青年。昔の恋人に失望して以来、女を軽蔑し、恋に悩む真一郎の事を気づかって居る。
野々宮幸子(京マチ子)
 ピアノの先生で、唯一人の弓子の理解者。真一郎と再会出来たのもつかの間、失った純潔の為にその恋に破れようとしている弓子を救おうとする。
福井譲(北原義郎)
 光子のボーイフレンド。明朗快活な好青年で、いつも光子にやっつけられているが、最後には光子と結婚する。
高倉明(勝新太郎)
 やはり光子のボーイフレンドだが、福井に先をこされて光子をとられてしまう。楽天家で気の良い青年。
沢田道代(山本富士子)
 弓子の幼友達。明朗快活で生活力旺盛の美貌の乙女、弓子と二人で東京に下宿して、何かと弓子の世話をやいている。
渡辺澄子(伏見和子)
 五郎の前の恋人で、彼を忘れられずにしばしば訪れるが、いつもさびしく追い返される。彼の他にも男が居る様な一人で生きて行けぬ弱い女。
柳定夫(高松秀郎)
 松島時計工場の技師で、真一郎や五郎の良き友であり、何かと気をくばって二人の面倒を見る理知的な青年。

★も の が た り★

 松島時計の社長の息子、松島真一郎は芸大音楽部ピアノ科を受験する妹光子を自家用車で送り迎えするうちに、同じ受験生の桐生弓子と近づきになり互いに好意を抱き合うようになった。そして光子は合格し、弓子は落ちて再び相見ることもなくなった。合格するまでは互いに名も住所も秘密にする約束だったから、真一郎が彼女のことで知っていることは117番という受験番号のみ。そして彼女の家が東京に近い田舎であること。弓子のほうでもその点は同じで、互いに秘めた念いを届かすすべもない。

 そんな弓子と真一郎の上に、それぞれ縁談が持ち上った。弓子の相手は同じ村の財産家市岡家の長男鶴夫で、弓子の気がすすむはずはないが、この結婚によって、家も屋敷も人手に渡りそうな弓子の家に、市岡家から援助があることを母のよし江から説かれ、とうとうこの地方の風習に従って足入れを行わねばならなかった。足入れとは結婚の約束だけで嫁にゆき、婚家先の気にいれば式を挙げ、気にいらねば追い返すという悪習だった。

 弓子は嫁ぐ前にせめて真一郎兄妹の名前だけでも知りたいと、以前師事していたピアノ教師の野々宮幸子を訪問するという名目で、友の沢田道代と共に東京に出て芸大を訪ね、受験番号を手がかりに調べようとしたが、規定で名を知らせるわけにはいかないと断られ、しかもその日光子たちの授業は休講で逢うとこもできず悲しい思いで帰ってゆく。

 一方真一郎の相手は山村富子という大阪の娘。兄の御風は有名な舞踊家で、渡欧記念公演のため弟子の素風と共に上京した際も、くれぐれも富子のことを真一郎に頼んで旅立ったが、真一郎の胸には消すことのできない弓子の面影が焼きついている。光子の学友の福井譲や高倉明はそんな真一郎の心にうたれたが、富子の身にすればこの上もなく悲しいことだった。真一郎の親友で松島時計の技師でもある芹沢五郎は真一郎の感傷をしばしば忠告したが、それに対して真一郎は五郎の元の恋人渡辺澄子のことでたびたび論争するのだった。五郎は真一郎の気分を転換させるために、自分が行くはずの東南アジアへの出張を真一郎に譲った。

 出発前の真一郎が、心あせるまま新聞の広告欄に117番の行方を尋ねたことから、弓子は鶴夫やその母高子から誤解を受け、たった三日で市岡家を追われてしまった。鶴夫の弟松夫や妹福子は弓子の味方だったが・・・。

 再び思い出の春がめぐってきた。弓子は自活の道を求めて東京へ。そして真一郎は東南アジアから帰国した。そして二人は芸大の校庭で遂にめぐりあう。はじめて名をうちあけて呼び合う二人。真一郎は弓子を家に呼び、両親にひき合わせた。だが弓子には足入れの過去がある。事実を知った真一郎の悩みは弓子のそれに劣らなかった。仲に立った野々宮幸子のとりなしや、帰朝した富子の兄御風の理解ある計いも甲斐なく、弓子は傷心の身を新潟へ旅立つことになる。

 出発日の夕ぐれ駅へ向う途中、芸大を訪ねずにいられなかった弓子は、そこに真一郎の姿を見出した。相対して動かぬ二人・・・やがて同時に駆け寄り、ひしと抱き合った。いつまでもいつまでも・・・。(平凡55年6月号より)

 大映の東西両撮影所の人気スターが、大挙出演する豪華キャストが呼び物だが、中心となるのは若手クラスで、大スターは顔見世のおつきあい程度。原作は小山いと子の婦人雑誌連載小説で、脚本は衣笠貞之助と相良準、監督衣笠貞之助。

 ふとしたことから知りあった男女が、たがいに心ひかれながら、名前も所も知らずに別れ、ようやくめぐりあったときは女の過去が障害となる。二人は結ばれるのはいつの日か━と物語の骨子だけをぬきだせば、なんのことはない『君の名は』とそっくり。相も変らぬ恋愛メロドラマである。

 ヒロインの娘(若尾文子)は芸大の入学試験に落ち、試験場で知りあった金持娘(南田洋子)の兄(根上淳)と再会を約して田舎へ帰るが、家のため気のすすまない結婚を強いられる。この土地には「足入れ」という因習がのこっていて、正式な結婚前に婚家へ入り先方次第で、いつでも破談にされる。いわば一方的な試験結婚である。嫁いだ翌日、青年が受験番号を頼りに彼女を捜す新聞広告を、夫(船越英二)に発見されて追い返された娘は、東京へ出て青年と巡りあうが、自分の過去を恥じ、青年のほうは彼女が純潔を失ったことを責めて、またはなればなれ。が結局、周囲の口ぞえで翻心した青年が、彼女の心の純潔をみとめてハッピー・エンド。

 芸大の入試験とか足入れ結婚とか、せいぜい趣向をかえて目さきの変化をねらっているが、それでも偶然、スレちがい、誤解、と定石どおりの古いテの羅列だから一向に興がわかない。それに出演スターが多いので、それぞれの見せ場もつくらなくてはならず、本筋とはあまり関係なしに、やたら大ぜいの人物がわずらわしく右往左往する。といっても観客にははじめから底の割れたストーリーより、むしろそちらの興味のほうが大きいかもしれない。

 たとえば根上を慕う令嬢に矢島ひろ子、その兄の日本舞踊家に長谷川一夫、その弟子市川雷蔵、根上の親友菅原謙二、南田の婚約者北原義郎、若尾のピアの教師京マチ子、母三益愛子、親友山本富士子、その他、林成年、勝新太郎、市川和子といった顔ぶれである。要するにお正月のご挨拶舞台みたいな映画で、その意味では二時間十数分をたっぷり楽しむ人も多いことだろう。(南俊子 スポーツ報知 05/01/55) 

 

薔薇いくたびか

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歌:三浦洸一 作詞:佐伯孝夫 作曲:吉田正 編曲:小沢直与志

一、
薔薇はくれない 恋の花
若いこころの 春の花
雨、雨なぜに辛く降る
  ああ、君哀し、僕哀し
ニ、
燃えて待つ朝、慕う宵
いとし彼の君どこの空
きこえる歌はたのしくも
夢に見ました涙顔
  ああ、君哀し、僕哀し
三、
病みて悩みて散りながら
君にまた咲く赤い花
切なや薔薇よいくたびか
恋のあわれにいくたびか
  ああ、君哀し、僕哀し

       

 

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