潮来出島・美男剣法

1954年12月22日(水)公開/1時間29分 大映京都/白黒スタンダード

併映:『母千草』(鈴木重吉/三益愛子・川上康子)

企画 辻久一
監督 安田公義
原作 富田常雄
脚本 八木隆一郎
撮影 竹村康和
美術 西岡善信
照明 島崎一二
録音 海原幸夫
音楽 山田栄一
助監督 小木谷好彦
出演 嵯峨三智子(お雪)、水戸光子(お紺)黒川弥太郎(平手造酒)、市川小太夫(門川好蔵)、沢村国太郎(笹川の繁蔵)、東良之助(飯岡の助五郎)、
惹句 突きの一手五尺の快剣、見事つらぬくか宿命の恋仇の娘に恋した花の美剣士が、やくざでいりの真っ只中に凄絶ひらく大殺陣』『波瀾痛快の愛憎絵巻』『飛燕の業か、音無しの構えか、必殺の剣い生涯を賭ける花の美剣士、仇討ち悲願の道中に美わしき乙女の恋を得たが・・・』『契った女が兄を殺した仇敵の娘とは、宿命に泣き、恋に悩み、剣に生きる美剣士の一刀流に、潮来出島のしぶきが光る

 

 

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 富田常雄が中部日本、西日本、北海道の三大地方新聞に絶賛連載中の時代小説「潮来出島」が、今大映京都で映画化、脚色八木隆一郎、監督安田公義、撮影竹村康和のもとに撮影されている。

 主人公の美男で剣客の北原竜四郎には市川雷蔵が扮し、その恋人お雪には嵯峨三智子が扮すると云う初顔合せで、その他平手造酒に黒川弥太郎、その恋人お紺には水戸光子、又市川小太夫など出演する事が、興味と注目の中で決定したこの作品である。

 数奇な運命の下、多感の青年剣士と薄倖の美女が、愛憎の二途に悩みながらも、ついに純愛に結ばれる行路の中に、多彩な人生図を展開する波乱痛快の愛憎絵巻といった、新春に送る興趣篇である。(近代映画55年2月号より)

 

 このほど大映と新契約を結んだ市川雷蔵の第一回主演映画『潮来出島・美男剣法』は、嵯峨三智子、黒川弥太郎、水戸光子という顔合せでクランクを開始したが、北原竜四郎という美男剣士になる雷蔵が、この映画で使う刀というのが五尺近いもの。普通侍の刀は、二尺五寸から三尺止りだから、記録破りの長刀ということになる。ところで、雷蔵がこれを振りまわして立回りをやるわけだが、如何に竹光でもこれが相当の目方。腕っぷしにはもともと自信のないやさ型の彼だから、片手なぐりの構えになると腰がふらつく。(写真下)

 「また監督さんもえらい長いものを持たせて殺生やね」と同情すると「それが実は、私が考えたものなんで、これだけは文句の持って行き場所がないんです」と情なさそうな顔。しかし、まだ抜いて振りまわしている間はいい方で、これを腰に差して歩く段になると、柄は胸もとにニュッ!と突き出るしコジリは足のかかとに当るので、まるで棒をのんだような格好。彼の恋人お雪になる嵯峨と並んで歩くシーンなど、とかく彼女より遅れがち、そのまた歩きぶりが、ゾロゾロ、ヨチヨチ「私の恋人ならもっとサッソウとしてほしいワ」と剣つくを食うなど、美男剣士も大クサリ。(写真上)

 「何事も、身のほど知らぬ長刀」

 なんて、迷句をヒネッて自分をなぐさめている。(デイリースポーツ・大阪版12/08/54)

 

■ 解 説

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 初の本格的な主演作。この年(1954)11月大映(株)と専属契約を締結。相手役の嵯峨三智子とは、これが初顔合わせ。雷蔵映画初期の名コンビとなる。

 飛燕の業か音無しの構えか?やくざ出入りの真っ只中に凄絶な大殺陣が展開する。

 『潮来出島・美男剣法』は1954年の大映作品で、この映画で市川雷蔵ははじめて主演を単独でつとめた。

 市川雷蔵は前年に『花の白虎隊』でスクリーンに登場したが、周知のように勝新太郎なども含めてのデビューであった。そのあと雷蔵はたてつづけに映画に出るものの、長谷川一夫の『銭形平次捕物控・幽霊大名』、京マチ子主演『千姫』、そして美空ひばりの相手役をつとめた『歌ごよみ・お夏清十郎』と、いずれもあくまで大スターが中心となっていた。

 『潮来出島・美男剣法』はそれらにつぐ五本目の映画で、初の本格的な主演作になったのである。しかもこれは大映専属第一作でもあった。

 ・・・・突きの一手!五尺の快剣、見事つらぬくか宿命の恋!仇の娘に恋した花の美剣士が、やくざでいりの真只中に凄絶ひらく大殺陣!

 これは『美男剣法』の惹句だが、すべてがうまく言い尽されている。

 仇討ちと恋のしがらみは昔から時代劇の格好の題材で、戦前の阪東妻三郎の映画などでも描かれた。武士道の掟との葛藤のもと、愛のドラマがいっそう燃え立つのである。そこへ「天保水滸伝」の平手酒造の話が重なる。これまたお馴染みのドラマで、近いところでは勝新太郎の『座頭市物語』(1962)に平手酒造が登場する。

 新スター・市川雷蔵の魅力を盛り立てるべく、時代劇の定型がフレッシュな形で活用されたといえる。富田常雄の原作「潮来出島」は「東京新聞」の連載小説で、よく知られた話を新鮮に料理したものであろう。

 ヒロイン・嵯峨三智子はやはり前年にデビューした新人で、このとき十八歳。山田五十鈴の実の娘であることはあらためて説明するまでもない。時代劇にふさわしい美貌ゆえにモテモテの人気で、たてつづけに映画を撮るとともに、この若さですでに結婚もしていた。大柄なので、並ぶと黒川弥太郎などは小さく見える。市川雷蔵とはこのあと連続的にコンビを組む。(山根貞夫の「お楽しみゼミナール」 キネマ倶楽部・日本映画傑作全集ビデオ解説より)

 

■ 物 語

 身丈に近い大竹刀、五尺三寸の業物?を肩に、江戸の道場を片っぱしから荒して廻る若侍がいた。その名を北原竜四郎、彼は、兄の仇を討つため、江戸に居るというその仇、門川好蔵を求めて、国表を出、祖父の家に身を寄せて毎日、仇を求め乍ら、腕をも磨こうと、かくは名のある道場に現われては五尺三寸の大竹刀で、試合を挑むのであった。彼の剣法は我流だが、気合も懸けずに諸手の一突きで相手を倒す、この手に掛ると道場の強者もひとたまりもなく突き倒された。強い、確かにそれは前代未聞の強さであったが、負けた人たちは「なにを軽業剣法」と、ぶべつして呼ぶのであったが、若侍にして見れば、求める仇が剣豪と聞いているので兎に角、討たねばならぬという念願がかくの如き剣法をあみだしたのであった。

 こんなことから彼若侍は、千葉道場を破門された北辰一刀流の使い手、最も、今では、酒と女に身を持ち崩し、下総のやくざの親分から用心棒料として生活費を受けている、平手造酒と知り合った。平手は不思議とこの若侍、竜四郎に好意を持った。ある時は竜四郎特有の真剣さに押されて真剣勝負もやってみた、「若いのに凄い腕を持っている」、平手は内心舌を捲くのであった。

 こんな二人の間に、一人の娘、お雪が登場した。彼女は平手もよく来る茶店の看板娘で、彼女は竜四郎に好意を示し、この二人の試合にも竜四郎にことなかれと、乙女の祈りを懸けるのであった。
「仇を討てば武士の面目はたつが、討てば討ちたくなるのが人情とすればばかなことをするものだ」

 竜四郎は数ある兄弟の中、自分だけが腕が強いというので仇討ちに出され青春を無駄に過ごすばからしさに行き当り、お雪という江戸の美しい娘を得た心に拍車をかけて、恋だけに命を賭けようとさえ思うのであった。

 こうした恋の喜びと悩みの中に、お雪との逢引に時を過ごすことの多くなった竜四郎に、彼が心では師と仰ぐ平手造酒は「この恋だけは諦めろ」と、己れはお紺という芸者と毎日現を抜かして居乍ら注言するのであった。−−その秘密が竜四郎に分かった。お雪こそ、竜四郎が求めていた仇も門川好蔵の娘であったのだった。
竜四郎は悩みに悩んだ−−そして、江戸を一人離れた。その彼が訪ねた先は下総の、平手造酒が寄宿する笹川繁蔵の下であった。

 その頃、笹川方と飯岡助五郎との間には風雲急を告げ一触即発の危機にあった。川波さわぐ潮来出島、そこには造酒の友人でもある門川好蔵が、これは飯岡助五郎の用心棒として、腕を撫して笹川方との喧嘩を待っている。(公開当時のパンフレットより)

 放談「美女・美男・美女」

−『潮来出島美男剣法』のセットにて−

 富田常雄の評判小説「潮来出島」(いたこでじま)を映画化した大映、安田公義監督の『潮来出島・美男剣法』は、兄の仇を求める青年剣士北原竜四朗と、自分がその仇の娘と知らずに彼を愛するようになった娘お雪との宿命的な恋に、酒のためやくざの用心棒に身を持ち崩した北辰一刀流の剣豪平手造酒と、侠艶の辰巳芸者お紺との悲恋がからみ、江戸から水郷大利根にかけて、波瀾重畳の物語を展開する青春時代劇だが、既に撮影は半ばをすぎ、おとなしくて無口な安田監督も「今度は面白いものになりそうですよ」と自信たっぷりの口吻を洩らしている。

 以下は、丁度セットの合間に、雑談中の雷蔵、嵯峨、水戸のお三人のかげへこっそりマイクを忍ばせて、盗み聴いた紙上録音の一コマ。

水戸 雷蔵さんと嵯峨さんだったら、映画では恋人同士で、とても仲がいいのに、どうしてそう喧嘩ばかりしているんですの。

嵯峨 みんな、雷蔵さんが悪いんですよ。私をいじめてばかりいるんですもの。

雷蔵 (関西弁のアクセントで)どういたしまして・・・。映画では夫婦になった処で終りだけれど、これが実際なら、そのあとが思いやられますワ。はじめは、彼女、とてもおとなしかったんですけれどね。

嵯峨 そりゃ、誰だって初めての撮影所へくれば、やはり多少勝手がちがって・・・

雷蔵 それが慣れるにしたがい、だんだん地金が出て来たという訳?

嵯峨 ホラ、この調子でしょう。でも、私、日活以外大抵の撮影所へ行きましたけれど、ここ(大映京都)が一番早く、皆さん−雷蔵さんも入れてよ、とても親切なので、慣れましたわ。

水戸 嵯峨さん、今度のお雪の役お好き?

嵯峨 今度の役は雷蔵さんと恋人同士ですが、「君の名は」式に「すれちがい」が多くって、本当のラブシーンって案外少ないでしょう。ラストではワッとばかり抱きついちゃったけれど・・・。ですから、こんな時代劇版真知子みたいな純情可憐な役より、本当はもっと強い性格が好きなんですよ。

雷蔵 すると、ぼくはさしずめ後宮春樹かな。

水戸 でも、この春樹さん、ずいぶん強いんですのね。

雷蔵 何しろ、五尺三寸の大刀を振りまわす青年剣士なんですからね。平手造酒先生と引分けの腕前ですよ。

水戸 先生といえば、今日は私の恋人役の黒川さんがいらっしゃらないので、お二人に当てられ通しって役ね。荒井組の『地獄谷の花嫁』とかけ持ちで。お忙しそうですけれど、この間も監督の安田さんが、今度の黒川さんの造酒、とってもいいっておっしゃってましたよ。

嵯峨 黒川さんで思い出しましたが、私、まだ六つくらいの時から、父のお友達で近所に住んでおられた関係から、黒川さんをよく存じ上げているのですよ。その頃から口癖で、こんどこちらで久しぶりにお逢いした時も「おじちゃん」とうっかりいって叱られちゃった。二人切りの時はいいけれど、人前では「兄さん」といってくれって。(笑)

(丁度、ここで、セットの準備OK!助監督さんが、三人を呼びに来たので、紙上の録音惜しい所でカット)(公開当時のパンフレットより)

美男剣法

作詞:萩原四朗 作曲:倉若春生 歌:今村隆

一、夢があふれる 瞼がうるむ
男 二十の花の身を
江戸の明かりに背を向けて
意地に追われる仇討姿
あーあ なんで なんで
生れた 侍血筋

 

ニ、眉は涼しく その名も肌も
雪とよぶ娘(こ)の瞳(め)がまねく
何を不覚と振りきれど
敵(かたき)うつ身が情に負けて
あーあ 武士の 武士の
誉か あの娘の恋か

 

三、江戸よ 世間よ わらわば わらえ
生きて また来る青春(はる)はなし
水にまかせて たどりつく
潮来出島の月魄(つきしろ)冴えて
あーあ 利根は 利根は流れる
二人の 秋も

お雪恋唄

作詞:萩原四朗 作曲:平川浪龍 歌:鈴木三重子

一、花も実もなきゃ夢もない
武家の掟のかたき討ち
あんな若さで、やさしさで
人を斬る気か、涙が出ます

 

ニ、消すに消されぬ面影は
父のいのちを狙うひと
筑波割けよと斬られよと
しのぶ恋路が、やめられましょうか

 

三、親もいらなきゃ名も要らぬ
花も蕾の恋ひとつ
潮来出島へ遁げましょか
月が招くと、言いますほどに

 

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 富田常雄の原作「潮来出島」は東京、中部日本、西日本、北海道新聞連載小説。

 ところで本来の潮来出島は、常陸の国行方郡潮来村から起こった俗謡で、江戸時代後期に全国的に唄われた潮来節の元唄といわれている。

 そもそも潮来は、仙台藩・津軽藩・南部藩など奥州諸藩が、その産米を江戸に輸送する中継地点で、前川沿いに蔵屋敷が立ち並び、遊郭や引手茶屋も許可されていたので、香取・鹿島・息栖のいわゆる東国三社詣でをする遊客や船頭たちでにぎわった。

 したがって潮来節の発祥は、利根川の船頭唄、もしくは遊女の「棹の唄」であったものが、しだいに花柳界のお座敷唄に変質し、はては流行歌となって全国的にひろまり、各地の盆踊唄や田植唄に取り入れられて残存したものと考えられる。(レファレンス協同データベースより)