『人肌牡丹』のお富士さん

  『人肌孔雀』で水もしたたる若衆姿にふんし、一人三役を演じた山本富士子がこんどは七変化ぶりをみせることになった。大映京都が森一生監督でクランクを開始する正月作品『人肌牡丹』(カラー・スコープ)がそれだが、東京で『白鷺』を終えて衣装合せに京都入りした山本富士子と、監督の、森一生にそれぞれの抱負をきいてみた。

 この映画は加賀のお家騒動がテーマの作品。城主が死んで世継ぎ問題が起るが、残された娘(岸正子)と病身の弟を助けて、腹違いの姉である山本富士子が、若衆始め七変化で大活躍。ついには悪人一味を倒してお家の安泰を図るというもの。これに市川雷蔵の目付役人や、近藤美恵子の鉄火な女、梅若正二の近習などがからむというわけ。

 森監督は、「『人肌孔雀』が好評だったので、その続編的なものとして、お正月らしい目先の変ったハデな映画にするつもりです。前作では若衆が主でしたが、こんどの七変化は、どれが主というのではなく平均化されたもので、ねらいはどこまでも山本富士子さんの魅力を出すことです。もちろん立回りもやってもらいますし、連獅子を踊るシーンもあって、波乱万丈とまではいかないが、おゼン立ては十分してあります。」

 「お家騒動が話の中心になりますが、だからといって深刻なものではなく、テンポも随分早いものにして、山本さんの神出鬼没ぶりを面白くみせたいと考えています。最近の山本さんは芸術作品、娯楽作品の区別なく熱心にやってくれますし、立回りなども吹きかえなしで体当りしてくれますから、その点実に立派になったと思います。とくにこういった娯楽性に徹底したものは、彼女も私も楽しみながら仕事が出来ますので、それが自然と絵のうえに出てくるのでしょうね・・・」 と、山本富士子あっての企画・・・と手放しのほめよう。

 当のお富士さんは、「こんどは虚無僧、若衆、町娘、お姫様、連獅子、踊りの師匠、姉御と七変化なの。前が四変化だったから、三つもふえたわけね。お正月の娯楽作品だから、肩のこらない文句なしに楽しめる作品にしてみたい。私自身もこういう映画の撮影は楽しいので好きですね。若衆のシーンが少ないので、もっともっと若衆姿で出てみたいくらいよ。『都会という港』で二役をやったけど、あれは完全に別な二人の人物で、むずかしかった。時代劇の変化は、またちょっとちがうでしょう。セリフの調子や、動きが役に合わなきゃダメで、その点むずかしいのは同じだけど、その変化の楽しさは時代劇ならではの楽しさがありますね。『白鷺』でコッテリしぼられたばかりなので、身体が疲れてて心配ですが、これが今年最後の作品になりそうなので、大いにがんばります・・・」

(デイリースポーツ 58年11月10日)

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