闘志で当る染五郎 

 『若き日の信長』 雷蔵相手に大熱演

 

 ブルーリボン賞の市川雷蔵が、風雲児信長に扮して主演する『若き日の信長』(白黒、スコープ)は、森一生監督のメガホンでセット撮影を続けているが、このほど、雷蔵の出場が初めて撮影された。

 この映画は、自由奔放な青年信長に焦点を当てて、山口左馬之助の娘弥生(金田一敦子)との結婚、重臣林佐渡守の切腹など、信長が人間として成長していく過程を描き、今川義元の大軍を桶狭間に討ち破るまでを描いた大作である。

 森監督自身が、文芸作品として製作したいと語っているように、セットの造りも、全体に渋みの加わったふんいきで固められ、黒沢組のセットをのぞいたような感じ。ここは信長の居室である。飾り気一つない荒造りな板間、ガランとした一室の中央に青ダタミが二枚敷かれ、メーキャップも荒々しい雷蔵の信長が、どっかりあぐらをかいている。市川染五郎ふんする小姓、林美作守が、信長の後にまわってカミソリを当てている。尾張の大ウツケといわれた信長の前途を案じた佐渡守は、切腹して主君をいましめるが、その子美作守は、信長に対するウラミをかくしきれない。

 これにつけこんだ今川の密偵小萩(青山京子)は、美作守をそそのかして信長の一命をねらう。カミソリを持つ美作守の手が、かすかにふるえてとまどうが、目をつぶった信長は微動だにしない。美作守の胸中を何もかも見通したような信長に対する恐ろしさと、信頼の念が次第にわき上ってくる。ここへ今川の大軍襲撃開始の一報がもたらされてくるという緊迫シーン。

 菊五郎劇団の秀才として、テレビ、映画でもおなじみの市川染五郎は、雷蔵に一歩も引けを取るまいと、猛烈なファイトで静の演技を深く掘り下げて表現する。まだ高校一年生だという彼は「父の切腹によって、信長に対する反感を持っているが、次第に彼の人間性にひかれ、小萩の誘惑も退けて、信長と生死を誓うまでになっていく、その気持の転換を、どう表現するか、大役だけに責任重大です・・・」と美作守の役柄を語っていた。