信長をめぐる撮影余話B

 力が入る出演者

りっぱな雷蔵の風格

 このロケでは、大仏次郎氏も顔を見せて雷蔵を激励した。一日中、馬上のロケでクタクタになった雷蔵は、

 「大仏先生の小説では、一行の戦闘場面ですが、わたくしたちの撮影では、一日も二日もかかるのです」

 粗野で一見豪快に見える信長が、実は、細心微妙な性格の持ち主であったことを表現するのが、最も苦労するところだそうだ。しかし、雷蔵の信長は、戦国時代の武将らしい不屈な性格と若々しい野望をよく描き出し、しかも、凛とした演技が何よりも映えていた。守役平手の自害を聞いて駆けつけ、慟哭しながら衷情を訴える長いカットなど性根の座った演技といえるであろう。

 また、これを取り巻く金田一敦子と青山京子は、

 「時代劇は二本目でユトリとまではいきませんが、演技を考えて、余裕が少し出てきました」

 「女間者の役は現代、時代劇を通して初めてです。今までの演技を白紙にかえして、ニューフェイスの気持ちでやっています」

クラずれで泣きっ面

 今年のベスト・ワンを狙った意欲的な時代劇『若き日の信長』の撮影に入った雷蔵は、『炎上』以上の意欲を見せている。

 この作品は御殿場、滋賀県饗庭野、奈良など数ヶ所で千数百の人馬が登場する大がかりなロケが予定され、その上ヘリコプターによる空中撮影も行なうというもの。『新平家物語』以来、久し振りで野生の青年信長を演じることになった雷蔵だ。この空前のロケと、異色の顔触れに大張切りである。

 「若き日の信長の行動的な面に、同じ年頃の青年として、大いに魅力を感じます」

 と意気軒高、連日、猛将信長になり切ろうと乗馬訓練に余念がない。しかし、一週間目にはとうとうシリの皮がむけはじめ、

 「助けてくれッ」

 ついには悲鳴をあげる結果に。そこでスタッフたち

 「泣き虫の信長になっちゃ困るわ・・・」

 「ウーム・・・」