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 剣豪作家五味康祐の原作を得て、大映京都が“本格的剣豪映画”の製作をめざすカラーワイド『薄桜記』(監督森一生)は、明暗二筋の剣豪の生涯を描いて、目下快調なクランクがつづけられている。しかも主演は、大映京都のライバル同士、市川雷蔵と勝新太郎。四年ぶりの両者の共演とあって、このところ撮影所内はふたりの話でもちきりである。

 市川雷蔵が演ずるのは丹下典膳。知心流随一の精妙剣の使い手で、もとは大身の旗本だったのが、妻(真城千都世)の身辺に生じた不吉な事件のため、自分はその妻の兄(北原義郎)にわざと右腕を切られ、以後浪人して妻のかたきをねらう片腕の剣士。最後には、さらに片足を鉄砲でうたれ、戸板の上に横たわりながら、群がりよってくる敵を切っていくという、いうなれば剣道の寝わざの達人だ。したがってその身辺にはたえずよう気に似た、暗い影がただよっている。この映画の暗の主人公とするゆえんだ。

 これにたいして勝新太郎がふんする中山安兵衛は、「忠臣蔵」でおなじみの堀辺一刀流の達人で、ご存じ高田馬場へ駆けつける途中、はじめて丹下典膳と知り合い、以後二人の運命を大きく変えてしまう。安兵衛が生まれてはじめて恋した女千春は、典膳の許婚者だったことがわかり、失望のあまり上杉家への仕官をことわり、浅野家へ仕えるようになる。一方、、典膳は上杉家千坂兵部の知遇を受け、 安兵衛とは相許した親友同士でありながら、吉良の付人となって安兵衛はじめ赤穂浪士と正反対の立場に立つ。背景の面白さは五味康祐独特のものだ。ところで典膳のよう気にたいし、安兵衛は豪放な明るい人物に描かれ、四年ぶりに実現したライバル同士の本格的共演作品としては、まさに格好なお膳立てといえる。

 「片腕の殺陣はとくにくふうをこらし、これまでにないフレッシュな切り合いをごらんにいれますよ」と雷蔵が語れば、勝も「甘っちょろいものじゃなく、しん底から安兵衛にほれてこの役に体当たりします」となみなみならぬ決意をみせている。シナリオを書いた伊藤大輔は、「この二人の人物を五分五分に書き分けるのに苦心した」という。またメガホンを握る森監督も「すべてに雷ちゃんと勝ちゃんを五分五分に登場させる」と言っている。映画の上では典膳が勝つか、安兵衛が勝つかという興味に加え、演技の上で雷蔵が勝つか、勝が勝かという興味が加わり、一段とこの作品を面白いものにしている。

西日本スポーツ 10/22/59