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悲運に果てる剣士

入念な演出 『薄桜記』

 

 ★いかにも幸せのうすそうな薄紅色のサクラのように、悲運におそわれつづけて果てる剣士を描いた娯楽時代劇。吉良邸への討入りがすんだ堀部安兵衛は、一人の剣客丹下典膳との不思議なめぐりあわせを追想する。

 知心流の使い手典膳が高田の馬場へ急ぐ堀内一刀流の安兵衛に、タスキのことで助言して、両流の対立からそれぞれの道場を破門されたのがきっかけ。

 自分の恋した女が典膳の妻になり、うらやんだのもつかのま、典膳の妻は犯され、典膳自身も片腕を切り落されるなど暗い運命がたてつづけにおそう。五味康祐の原作。森一生の監督。

 ★どこか気品をもった雷蔵の主人公が、これでもか、これでもかと悲運にみまわれる。雷蔵ファンの同情をあてこんだつくり方だが、その描写がわりにしゃれている。たとえば、犯された妻を心では許そうとする雷蔵が、妻の悪評を古キツネのいたずらにかこつけてうち消す。

 それで当時の武士階級のオキテを一応描いておいて、つぎに彼が妻を離縁するのとひきかえに甘んじて妻の兄に右腕を切り落される場面を描くという具合だ。

 森監督の演出も入念で、まあ上出来といえる。ラストの片手片足で雪のなかをのたうちまわりながらの雷蔵のチャンバラはちょっと見もの。

 もっとも悲劇のわりに全体の色あいがはなやかで、運命劇というほどの深さはない。B級の上。色彩ワイド、1時間43分。大映 (人見嘉久彦)

『薄桜記』 市川雷蔵と真城千都世