おてもやん

1961年5月3日(水)公開/1時間分大映京都/白黒スタンダード

併映:「黒い十人の女」(市川崑/山本富士子・岸恵子)

企画 久保寺生郎
監督 土井茂
脚本 高岩肇
撮影 相坂操一
美術 西岡善信
照明 古谷賢次
録音 鈴木夫
音楽 小川寛興
スチール 浅田延之助
出演 三田村元(広瀬新太郎)、三木裕子(おたえ)、宮川和子(おとよ)、藤原礼子(秀菊)、鶴見丈二(仁吉)、千葉敏郎(庄司辰之進)、清水元(木部蔵人)、山本弘子(おみつ)、近江輝子(「不知火」の女将)、水原浩一(丸山郁之進)、寺島貢(潮田頼母)、伊達三郎(西木)
惹句 『乙女が唄うあの歌が、勤皇志士の合言葉 今宵斬り込む熊本城下』『おてもやんの聞こえるところ死あり、恋あり、涙あり

◆ かいせつ ◆

 『剣豪天狗まつり』の高岩肇の脚本を、新人第一回の土井茂が監督した時代劇で、土井監督は昭和三年生れ、京大卒後大映に入社、衣笠貞之助、吉村公三郎らに師事した。撮影は『濡れ髪牡丹』の相坂操一。(61年6月1日発行 キネマ旬報No.286より )

 明治維新前夜の肥後・熊本藩。藩中は尊皇派と佐幕派の勢力争いに激しさが増していた。一方、城下では風太郎と呼ばれる義賊が強欲な家を襲い、奪った金を庶民にばら撒いていた。風太郎の正体は? 熊本藩の行方は? 幕府禁制の唄「おてもやん」が、熊本城下に風雲急を告げる!

◆ 見どころ ◆

 幕末の風雲急を告げる熊本城下を舞台に、勤王の志士と土地の可愛い娘との恋を中心として、変転目まぐるしい世の流れを哀愁のメロディーの中に描こうとするもの。キャストは鶴見丈二、近藤美恵子、宮川和子、楠木トシエらの若さに満ちた顔ぶれであり、演出も監督昇進第一回作として土井茂があたりますので、フレッシュな感覚が、なつかしい民謡とマッチした点が見どころ。

 全篇に流れる熊本民謡“おてもやん”が、このドラマでは重大な意味をもつが、男の友情と純愛とをペーソスを盛って描き上げる点、新しい手法の時代劇としても期待される。


◆ ものがたり ◆

 明治維新のころ、日本中が混とんとしている時--九州熊本の城下でも、薩摩から潜入した勤王の武士と、幕府の役人が争をくり返していた。そのどさくさをくぐって活躍しているのが風太郎と呼ばれる怪盗。彼は強欲の聞えたかい奴から金を盗んでは貧者にばらまくので人気が高かった。料亭「不知火」の女中おたえも風太郎のファンであった。そのおたえのもとに或る夜捕方の笛の音をくぐって突然男が飛び込んで来て、身をかくまってくれという。その男新太郎を、おたえはてっきり風太郎だと思い込み、不知火の下働きの仁吉や同僚のおとよと新太郎の去った後も彼の噂をしきりにするのだった。

 おたえは、おてもやんの唄が上手だった。彼女の唄に合わせて踊る芸者・秀菊の踊りは「不知火」へ来る客の最大の目的だった。その秀菊に目をつけているのが目附役の木部、彼はなんとか秀菊を物にしようとたくらんでいた。

 一方新太郎は偶然知り合った浪人庄司と「不知火」へやって来た。風太郎の身を案じるおたえははらはらするが、実は新太郎は薩摩藩から潜入した勤王の武士だったのだ。彼ら勤王の武士は、おてもやんの歌を合い言葉としていろいろ連絡を取っていたが、幕府がフランスから爆薬を買い入れようとしていることを聞きつけ、なんとかそれを阻止しようとする。しかし彼らの活躍は幕府の役人の知るところとなった。

 新太郎らが集まった席を取り囲んだ捕手の群。が、その時現れた風太郎が新太郎らに危険を知らせた。乱闘の中に風太郎は手傷を負った。風太郎を助け出した新太郎がふく面の下に見たものは、以外や「不知火」の仁吉の顔だった。彼は木部にとりつぶされた豪商の息子で、意恨をはらそうと幕府と結んだ豪商を襲っていたのだった。風太郎の最後をみとった新太郎は血路を開いて逃れ去った。

 そしてフランスの爆薬が陸上げされる夜、木部たちの話をもれ聞いた秀菊の知らせに、新太郎たちは今や勤王のために働いている庄司の助けをも借りて、爆薬の包みを爆破することに成功した--。その年の十月遂に倒幕の命が下った。新太郎を淋しくあきらめたおたえの前に、軍服姿で現れたのは、今は官軍の隊長として東上する新太郎の雄々しい姿だった。(61年6月1日発行 キネマ旬報No.286より )

◆ 民謡 おてもやん ◆

熊本交通センター・くまもと阪神前のおてもやん像

 熊本弁丸出しの民謡おてもやんは第4回昭和28年と第6回昭和30年の紅白歌合戦に出場。もとは「熊本甚句」という花柳界のお座敷歌で、その由来には

1 ただの戯れ歌。おてもは「お手芋」でありつくね芋の意。野菜尽くしの戯れ歌
2 実在のモデルを元に三味線と踊りの師匠「永田イネ」が作詞・作曲
3 「おても」を肥後勤皇党、「ご亭どん」を孝明天皇の喩えた勤皇党の忍び歌
4 西南戦争の際に新政府につくか否かを迷った熊本士族をあざ笑った農民の歌等、諸説あるようです

【おてもやんの歌詞と意味】※新熊本市史
おてもやん♪あんた此の頃 嫁入りしたではないかいな
 
おてもさん、最近結婚したんではないですか?
嫁入りしたこたぁしたばってん♪
はい、結婚はしたのですが
御亭どんの ぐしゃっぺだるけん まあだ盃ゃせんだった♪
ただ、婿殿が天然痘のあとが残っているので、まだ三々九度ん盃はしていません。それとも婿殿がブ男だから三々九度の盃はしていません、でも
村役鳶役肝入りどん あん人たちのおらすけんで
村の役付きさんや火消しの頭や仲人さんなど、色んな世話人の人達がいらっしゃるので後はどうなっと きゃあなろたい♪
後はうまくとりなしてくれるでしょう
河端町つぁん きゃあめぐらい♪
川端町のほうにまわってあるきましょう
春日南瓜(ぼうぶら)どん達ぁ 尻ひっぴゃあで花盛り花盛り♪
春日町は当時かぼちゃの産地、かぼちゃ男達が裾を引っ張ったりして私はモテもてです。わたしの人生いまが花盛り
ぴーちく ぱーちく ひばりの子 げんばくなすびのいがいがどん♪
雲雀の子のような浮かれっぱなしの男や野暮ったいイガグリ男達は私の趣味ではないよ「玄白なすび」とは杉田玄白が広めた茄子(市政だよりくまもとより)

肥後民謡「おてもやん」 標準語訳
一、
おてもやん あんたこの頃
嫁入りしたではないかいな
嫁入りしたこたしたばってん
ご亭どんがぐじゃっぺだるけん
まーだ盃ゃせんじゃった
村役 鳶役 肝いり殿
あん人たちの 居らすけんで
後はどうなっと きゃーなろたい
川端町さん きゃー巡ろい
春日 ぼうぶらどんたちゃ
尻ひっぴゃーで 花盛り 花盛り
ピーチクパーチク ひばりの子
玄白なすびの いがいがどん
おてもさん あなたは 
最近結婚したんではないんですか?
はい、結婚したのはしたのですが
ただ、婿殿が天然痘のあとが残っているので、
まだ三々九度の杯はしていません。
村の役付きさんや火消しの頭や仲人さんなど、いろんな世話人の人たちがいらっしゃるので、
後はうまくとりなしてくれるでしょう
川端町のほうにまわって歩きましょう。
春日のかぼちゃのような男たちが裾を引っ張ったりして、私はモテています。私の人生は今が花盛り
春の雲雀の子のように浮かれ男や野暮ったいイガグリ男たちは嫌い


二、
ひとつ山越え もひとつ山越え あの山越えて
私ゃあんたに 惚れとるばい
惚れとるばってん 言われんたい
追い追い 彼岸も近まれば
若者衆も 寄らんすけん
熊本(くまんどん)の  夜聴聞(よじょもん)参(みゃー)りに
ゆるゆる話も きゃーしゅうたい
男振りには 惚れんばな
煙草入れの 銀金具が
それがそもそも 因縁たい
アカチャカベッチャカ チャカチャカチャ
あなたは幾山を越えたような遠い存在なのだろうか
あなたが好きよ 
でも好きだからこそ言えないのよ
お彼岸ももうすぐだから 若い男たちも来るでしょうし
夜にはお寺へお参りに行って ありがたいお話を聴きましょう
それまでゆっくりとお話でもしましょうか
わたしね 外見だけの男には興味がないの
タバコ入れの洒落た銀金具がステキとか
そういうことで好きになったりするのよ
あら あたしったら・・・ 恥ずかしい!
(囃)アッカンベーのベロベロベー

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