無宿者

1964年8月8日(土)公開/1時間29分大映京都/カラーシネマスコープ

併映:「悪名太鼓」(森一生/勝新太郎・朝丘雪路)

企画 財前定生
監督 三隅研次
脚本 星川清司
撮影 牧浦地志
美術 内藤昭
照明 古屋賢次
録音 大谷巌
音楽 池野成
助監督 西沢鋭治
スチール 西地正満
出演 滝瑛子(お勢以)、坪内ミキ子(はる)、藤巻潤(黒木弥一郎)、石山健二郎(赤鞘の源七)、沢村宗之助(三州屋波蔵)、阿部徹(島屋十兵衛)、水原浩一(儀十)、滝恵一(鮫の和四郎)、杉山昌三九(黒木半兵衛)、橋本力(毘沙門)、玉置一恵(青貝又七)、浜田雄史(伝次)、堀北幸夫(藤八)、石原須磨男(伍平)、寺島雄作(杢兵衛)
惹句 『たとえ親でも、悪党野郎はぶった斬る汗とほこりの中で異様に輝やく男の眼』『殺し合いなら度胸と場数いわくありげな赤鞘抱いて、地獄の底まで追いつめる』『血風ふき抜ける恐怖の宿場に誰を狙って、どこから来たか

  

■ かいせつ ■

 市川雷蔵主演のこの映画『無宿者』(総天然色)は、八月お盆公開作品で、彼にとっては『長脇差忠臣蔵』以来、二ケ年ぶりに取り組む本格的なやくざものです。脚本は、昨年『暴動』で、シナリオ作家協会選出の、特別賞を受賞した気鋭の新人星川清司が、雷蔵のレパートリーを更に拡げるべく書き下ろしたオリジナル・シナリオです。

 従ってやくざものと、一口には云っても、雷蔵の、これまでの股旅ものには見られぬ、男の体臭がムンムンするバイタリティに溢れたやくざが主人公で、乾いた、荒いタッチの、スピードに富んだ内容のものです。

 物語は、佐渡の金山を背後に控えた、荒海渦巻く日本海に面した一寒村を舞台に、ある日、偶然が結びつけた奇妙な二人づれがフラリ現われたことから始まる。ひとりは、誰に殺されたか判らぬ父の形見の朱鞘のドスを背に、仇を追い求める若いやくざ、他のひとりは、御用金拐帯の汚名を着せられたまま消息を絶った父を探す侍くずれの男で、彼らは、この寒村を根城にして人狩り、殺しなど、悪の限りを尽す、姿見せぬボスこそ、互いの父の生死に関係があることを知って、相協力してその正体を洗う。

 −が、次第に薄紙を剥ぐごとく事実が明らかになってゆくにつれ、彼らは、互いに仇同志ではないのかという疑心暗鬼に捉らわれ、烈しく対立するが、とうとう意外な事実が現れて、二人の複雑に錯綜した愛憎は最高調に高まるといったもの。

 監督は、ベテラン三隅研次が、『剣』以来、四ヶ月ぶりにメガホンをとるが、企画の段階から共に構想を練り、演出の冴えは既に定評のあるところから早くも見応えある問題作との期待が大きい。カメラは、一作毎に野心的なキャメラ・ワークを見せる牧浦地志が、照明は古谷賢次、録音、大谷巌、美術、内藤昭といったベテランがそれぞれ担当する。

 キャストは、前述のように市川雷蔵が、筋骨逞しい身体に汗の染込んだ着物をまとい、顔もロクロク洗わないようなホコリっぽい若いやくざ一本松といった、およそ彼のイメージに程遠い役柄に扮して、映画俳優としての真価を問うほか、チャキチャキの現代っ子である滝瑛子が、“ジメジメした感じではなく、カラッとした作品に仕上げたい”という三隅監督の要望を担って、初めて時代劇に出演する。

 また旅鴉の雷蔵に稚ない恋心を寄せる漁師娘に、大映の秘蔵っ子スター坪内ミキ子、雷蔵の一本松と奇妙な友情に結ばれる浪人に、藤巻潤といったピッタリの配役に加えて、雷蔵の父、赤鞘の源七に石山健二郎、腹黒い船問屋の主人に阿部徹、宿場やくざに沢村宗之助、鮫の和四郎と呼ばれる殺し屋とも、用心棒とも知れぬ男に滝恵一と、この作品の内容にふさわしい異色のキャストを揃えている。(公開当時のプレスシートより)

 

 大映の滝瑛子が初めて時代劇に出演することになり、このほど京都撮影所で衣装合わせした。出演映画は『無宿者』(三隅研二次監督)で、主演の市川雷蔵とも初めて顔合わせ。結髪室でカツラをつけた滝は、汗をにじませながら「何ごとも勉強だから、時代劇に出たかったの。何もかも初めてづくしですが、三隅先生にしっかりしぼってもらい、いいお芝居をしたい」と元気いっぱい。この前の『十七歳の猿』であばれすぎて、モモをふた針縫ったという。

 『無宿者』では、ヤクザの黒幕船問屋(安部徹)の愛人お勢役。流れ者の旅人の一本松(市川雷蔵)にほれてしまい、最後にはなぶり殺しにされる。「またキズつくりそうよ。覚悟はしていますが、たいへんなことになりそう。そのうえくずれたとこがある女ですから、着物の着こなしからむずかしいわ」

 役柄に合った着方をくふうしなければならないのが苦労だという。カツラは『傷ついた山河』の芸者役で経験ずみだが、「本格的な時代劇でカツラをつけたら、どんな顔になるかと不安でしたが、こうやってみると心配したことはないわ」と鏡を片手にまんざらでもなさそう。(西スポ 06/25/64)

 

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■ ものがたり ■

 「疫病神の生れ代りめ!とっとと消え失せろ!」 曰くあり気な赤鞘の長ドスを振り廻して、一本松は、喚いた。この男が企てた賭場荒しにまき込まれて、危くここまで逃げのびてきたものの、あのとき漁師の娘が馬を曳いて通りかからなかったら、いまごろどうなっていたか分らない。腕は立つらしいが、この男の、侍のくせにからきし意気地のなかったこと、思い返しても、いまいましかった。ガランとさびれた宿場は、日の暮れるのが早い。

 「餌にありつくのなら−」と、北陸路には珍しくあだっぽい美女、お勢以に教えられて人足問屋兼やくざ稼業の三州屋に身を寄せた一本松は文字通りわらじを脱ぐヒマもなく人足狩りに駆り立てられて、偶然にもそこで漁師の娘、はるに出喰わして、驚いた。

 「シケた田舎やくざだったのが、三州屋が二年前から急にか・・・急に、ねえ?・・・」一本松のただでさえ険しい目付きが、何故か鋭く光って・・・はるに襲いかかったやくざをものも言わずに斬り倒した。

 「風来坊殺すぞ!」ゾッとするような冷酷な低い声と一緒に、月明かり一歩ふみ出した、見るからに容貌魁偉な男を迎えて、一本松は血刀を立て直した。舟問屋島屋十兵衛のもとに居候する用心棒とも殺し屋ともつかぬ鮫の和四郎と名乗る侍くずれの男、一本松も名前だけは知っていた。あわや、と見えた瞬間、キラリと光ってお勢以の簪が落ちて来た。

 「・・・御用金略奪・・・笹子峠で・・・」というきれぎれの叫び声に、一本松は、ガバと身を起した。今日も、乾いた空に真赤な太陽が浮かんで、辺りがやけに白っぽい。昨日の浪人が、役人に追われているのを見て、一本松は走った。宿場人足や代官を鞘ごと殴りつけ、浪人を奪い取ると彼に長脇差を抜いて迫った。「さあ、刀を抜け!刀を!てめえの親父がおれの親父を殺したんだな!・・・五年前、御用金事件があった同じ日、ところも同じ笹子峠だ!畜生!姿かくして、どこかで親父と落ち合う魂胆だな、どこだ?さあ云え!」一本松の凄じい剣幕に、黒木弥一郎は本能的に抜刀したものの、度胸だけの無茶なやくざ剣法で、猛然と斬り込む一本松の斗志にガックリと刀を投げ落してしまった。

 「待ってくれ!父は正義の士だった!拙者も、父を探し出して、五千両拐帯犯人の汚名をそそぎたいのだ!信じてくれ!」 弥一郎の澄んだ瞳に、一本松は、二人で探し出そうと誓いあうが、「だが、波蔵というケチな男が、急に羽振りがよくなったのは、二年程前に、十兵衛が来てからだそうだ。その男が、お前の父の仮の姿だったら、どうだ、辻褄が合うぜ!」

 不安におののく弥一郎を引立てるように、一本松が、島屋に乗り込もうとしたとき、はるの父儀十が転がるようにやってきて、はるが、波蔵の屋敷に無理矢理連れ込まれたことを知らせる。三州屋へ乗り込んだ二人は、はるを無事助け出して、十兵衛の正体を吐かすべく波蔵を強迫するが、意外にもヒョッコリ十兵衛と現れた和四郎の刀がとんで、殺されてしまった。手がかりを断たれた暗然たる面持ちの一本松に、十兵衛を眼の辺りに見た弥一郎はこおどりして喜ぶ。

 「うるさい!まだ分るものか!あのとき波蔵は、十兵衛には、またその上の−と云いかけたんだ。それがお前の親父さ!」 兄、波蔵の野辺送りを済ませて、居酒屋で独り悲しみを酒に紛らわすお勢以を、羽交いじめにして離れにつれ込んだ一本松は、兄の死の真相を知って、十兵衛と縁を切りたい、そのために彼を殺して欲しいと胸の中で泣き伏す彼女から、十兵衛には矢張り、姿を見せぬ黒幕が居ることをきき出した。だが、そこへ和四郎を先頭に十兵衛の子分どもが殴り込んでくる。一本松は、辛うじて脱出したものの、いまは彼を慕うお勢以は、詫びをいれず、和四郎の偏執的な激しい折檻に息絶えてしまう。

 お勢以の言葉に勇気を得た一本松は、根気よく黒幕の正体を探るが、出てくる新事実は、弥一郎の父と結ぶ線が色濃い。然し決め手となるものがなに一つないのだ。気ばかり焦る一本松は怒りっぽくなって、弥一郎と烈しい対立を繰り返しては、はる親娘をおろおろさせるばかりだったが、ある日、とうとう真実は、海の向うからやってきた。

 十兵衛は、そのボスの命で村人たちに金を貸し借金のかたにと称しては、佐渡の金山に送り込んで強制労働を強いるばかりか、悪事に加担させ、果ては証拠湮滅のため皆殺しにしていたのだ。そのことをうすうす察知している村民たちは、半鐘の音とともにばらばらと逃げ出したが、暴力には勝てなかった。孤り奮斗して村人たちを逃がしてやる一本松。だが、次の瞬間、辺りに威厳を払って近付いてくる男を見て、アッと小さな叫び声を上げた。意外にもその男こそ、夢にまで忘れたことのない自分の父、赤鞘の源七その人だった。弥一郎の父・黒木半兵衛殺しの犯人が自分の父だったとは、この事実を、彼にどう告げればよいのか、一本松は刀の柄に手をかけたまま、懐しそうに近付いてくる父のニコやかな笑みを受けとめかねていた−。

 事態は、この新しい事実の出現に、二度、三度大きく揺れてゆく・・・。(公開当時のプレスシートより)

 

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