続・忍びの者

1963年8月10日(土)公開/1時間33分大映京都/白黒シネマスコープ

併映:「座頭市兇状旅」(田中徳三/勝新太郎・高田美和)

企画 伊藤武郎
監督 山本薩夫
原作 村山知義
脚本 高岩肇
撮影 武田千吉郎
美術 内藤昭
照明 山下礼二郎
録音 大角正夫
音楽 渡辺宙明
スチール 藤岡輝夫
助監督 鍋井敏宏
出演 藤村志保(マキ)、坪内ミキ子(タマメ)、山村聡(明智光秀)、城健三郎=若山富三郎(織田信長)、東野英治郎(羽柴秀吉)、永井智雄(徳川家康)、伊達三郎(服部半蔵)、山本圭(森蘭丸)、石黒達也(鈴木孫一)、須賀不二男(斉藤内蔵助)、松本錦四郎(織田信雄)、荒木忍(里村紹巴)、南条新太郎(石田三成)
惹句 『成るか成らぬか、忍者の復讐地に潜り、闇を飛ぶ忍びの者』『地上にも、空中にも、同一人物が現れる堀を飛び、天守閣に吸いつく忍者の早業』『地に潜り闇を飛び姿をかえて今こそ忍者の復讐を見せてやる

◆作品解説◆

 大映が山本薩夫監督、市川雷蔵主演で製作する村山知義原作の『続・忍びの者』は、昨年暮に封切られ大好評を博し、その後の“忍者もの”ブームの先端をひらいたといわれる『忍びの者』の続編ですが、大映では全国映画ファンの熱望にこたえ、八月お盆作品として、ふたたび同じスタッフで取組む異色の話題大作です。

 内容は、前作のラスト、信長の伊賀襲撃により忍者の組織は根滅するが、生き残った五右衛門夫婦は、その後も執拗な忍者狩りによって幼児を殺され、信長を生涯の仇と狙う。たまたま家康の部下で、同じ忍者の服部半蔵から、明智光秀が信長に反感を抱いていることを知らされ、彼のもとに仕官。光秀の敵対感情を煽り立て、ついに本能寺の変を起させ、信長を虐殺、見事愛児の仇討ちに成功する。

 さらに天下を掌中に収めんとする秀吉は、五右衛門の妻マキの生まれ故郷であり、農民の武力抵抗最後の拠点である雑賀(和歌山市)の部落を襲うが、この戦いで愛妻を失った五右衛門は、家康の連絡をえて、こんどは秀吉の命を狙うが、ついに失敗。捕えられて三条河原で処刑されるという、これが有名な五右衛門の釜煎りの刑です。

 前作は、忍びの者のあの手この手を科学的な説明でリアルに描いた点で、画期的な時代劇であり、しかも興行面では記録的なヒットを放って、芸能界に時ならぬ忍者ブームを巻き起こした問題の映画ですが、続編では、さらに忍びの術の新手が次々と飛び出すほか、前作の百地三太夫にも倍する面白さで、こんどは智謀家として徳川家康クローズアップされ、さらに一だんと興味をそそります。

 主な配役は市川雷蔵の五右衛門、藤村志保の妻マキ、城健三朗の信長は前作通りですが、新しく登場するのは坪内ミキ子の女間者タマメ、伊達三郎の服部半蔵、山村聡の光秀、東野英治郎の秀吉、永井智雄の家康、大映初出演の山本圭の森蘭丸、石黒達也の鈴木孫一のほか、須賀不二男、松本錦四郎、荒木忍という異色多彩なベテランが脇役陣をがっちり固めています。

 スタッフは永田雅一社長が、みずから製作に乗出し、前作に引続き村山知義が連載執筆中の原作を高岩肇が脚色、独立プロ派の伊藤武郎が企画を、また監督の山本薩夫は『赤い水』に次いで三たび大映作品を演出、カメラは名手武田千吉郎が初めて登場するほか、録音大角正夫、美術内藤昭、照明山下礼二郎に衣装考証は上野芳生という異色大作にふさわしい気完璧の布陣です。(大映京都作品案内 727より)

 前作『忍びの者』は忍者の人間的苦悩をテーマに、過酷な忍者の世界を映像にしているが、この続編は復讐する五右衛門を通して、戦国武将たちの知略壱術策のあれこれを描いた戦国裏面史である。

 物語は生き残った石川五右衛門夫婦が、忍者狩りで愛児を殺され、信長を仇と狙うが、服部半蔵の情報で、光秀が信長に反感を抱いていることを知り、対立感情を煽って、本能寺の変を起こさせ、自らの手で信長の息の根を止める。しかし、天下を取ろうとする秀吉は、五右衛門が身を寄せていた雑賀砦を襲った。この戦いで愛妻を殺された五右衛門は家康の後ろ盾もあって、秀吉を狙うが失敗。捕えられて三条河原で処刑される・・・。

 山本監督「組織が滅び、仕官していった忍者が武将たちの間をどう流されていっかた。そしてまた、特に智謀家といわれる家康がどんな人間であったか、という点をとくに描いてみたかった」と忍者を操って、競争相手を倒し、天下を狙う徳川家康をクローズアップ。自分では手を下さないで、目的を達成していく、家康こそが真の忍者、つまり、極上忍であるという、原作者の意図に沿った演出である。しかし、権力者のかけひきに翻弄される五右衛門の悲劇が、もう少し見えたらと残念だ。

家康の永井智雄、秀吉の東野英治郎、信長の城健三朗(若山富三郎)、光秀の山村聡ら、脇の厚味がある演技が光っている。

大映グラフNo1(08/01/63発行)

◆物 語◆

 織田信長の伊賀攻略により、反信長の最後の拠点も潰え去った。しかし生き残った忍者たちを追及する信長の苛酷な忍者狩りはなおも続いた。

 木樵に転業して、愛妻マキとともに平和な生活を営む五右衛門のもとへも役人の手は伸び、最愛の赤ん坊を火中に投げ込まれ死なせてしまった。怒りに燃える五右衛門は、再び自力で信長必殺を決意するが、一旦マキとともに彼女の兄・勘助のいる紀州の雑賀(今の和歌山市)に百姓として身をかくした。

 雑賀こそは、五右衛門が夢想だに出来なかったすばらしい別天地であった。土地の郷士鈴木孫一を首領に雑賀党を組織し、一向宗の深い信仰を通じて民衆と固く結ばれていた。しかも一旦緩急ある時は、優秀な鉄砲をもって全員が勇敢に闘ったため、信長も秀吉もこれには再三手を焼かされ通しだった。一たんは忍者を嫌って廃業したはずの五右衛門も、いまでは鈴木孫一の片腕となって、皆のために得意の忍びの術を伝授した。

 そんな処へ、家康に仕官している同じ忍者の服部半蔵が、家康の使者としてやってきて、信長を殺すためには明智光秀の内懐に食いついて信長に対する彼の敵対感情をかき立てることだと教えた。光秀は文武に優れた誠実な人物だが、口下手で今では後輩の羽柴秀吉にも追い越され、彼の胸中には憤懣が募るばかり、それを巧みに利用すれば労せずして目的を達するというのである。しかも半蔵は、女間者のタマメを彼に引き合せた。彼女を安土城の腰元として入り込ませ、森蘭丸を色仕掛けで誘惑し、身辺をさぐらせ、工作を進めるというのである。

 半蔵のささやきに、矢も楯もたまらなくなった五右衛門は、早速光秀に近づくことに成功、その配下となって誘導に秘術を尽くすが、とくに家康饗応の役を仰せ付かった光秀を、その役目から失格させることにより離反工作は頂点に達した。かくして光秀はついに信長を本能寺に襲撃、五右衛門は燃え崩れる火焔のなかで信長を虐殺、その死を見届けてマキのもとへと急いだ。

 信長死すの知らせは雑賀にも伝わり、一同は喜びに湧き返った。だが、信長の死により天下の形勢は大きく動いた。堺に来ていた家康は、半蔵の先導で伊賀を越えて浜松城に帰り、光秀は上杉、毛利など反信長派の諸大名へ親書を送るとともに雑賀、根来へも使者を派遣して、救援を要請、また折から高松城攻略のため、中国に赴いていた秀吉は、直ちに和睦を結んで取って返し、光秀討伐の兵をおこして、これを破り、一方、石田三成を紀州に差し向け、雑賀党の全滅をはかるのだった。

 秀吉軍の包囲にあって、雑賀砦は極度に食糧、弾薬が欠乏、次第に疲労の色が濃くなった。ついに意を決した五右衛門は、単身囲みを巧みに突破して、根来へ援軍を求めに行ったが、僧衣をまとった根来百人衆を率いて雑賀砦へ引返したときには、首領をはじめ全員見事に討死、妻のマキも銃を持ったまま息絶えていた。

 愛妻を失って悲嘆にくれる五右衛門のもとへまたも服部半蔵が現われ、家康からの引出物と称して、秀吉の住む聚楽第の見取図を置いていった。この絵図面を手に五右衛門はすぐさま聚楽第へ忍び込んだが、秀吉の部屋には厳重な警戒が布かれ、しかも彼が今までに見たこともない立派な洋風の部屋に住んでいた。だが彼にも運命にみはなされる時が来たようである - 秘術を傾けて忍び寄る五右衛門も、さすがに鶯張りの廊下には気づかず、つに捕らえられ、見せしめのためと称して、三条河原で釜煎りの極刑に処せられることとなり、その数奇な生涯を閉じた。・・・これまでの様に、家康からの救いの手は、こんどばかりは最後まで差し伸べられなかった。家康は影から「一人の忍者が天下を動かす時代はもう過ぎた。信長公がふかし、秀吉殿が搗いた天下餅が余の前に並べられる日を待つんだ」とうそぶくのだった・・・。(大映京都作品案内 727より)

続 忍びの者

                          北川 冬彦

 村山知義原作、山本薩夫監督『忍びの者』の続篇である。前作『忍びの者』は、シナリオだけ読んで映画を見なかった。そのシナリオでは、忍びの者の掟、その宿命などが、原作によるのであろうが、よく調べられてはいたけれど、構成がごたごたして、どうにも仕様のない映画に違いないと思ったからである。ところが案外、好評のようなので、「続」が出たので、こんどはシナリオを読まずに映画を見てみた。

 山本薩夫は、『台風騒動記』あたりから、作品の娯楽性を、意識し出したようであるが、この『続・忍びの者』では、すっかり娯楽映画監督となっている。この映画によると、明智光秀が織田信長に対する反抗はもとより、本能寺に仕とめたのは忍びの者、石川五右衛門の力によること多大だし、光秀の信長への反抗の契機となった、家康饗応役からの失脚を、家康の操る忍びの者の力であるとしている。

 明智光秀は、知的でそこが粗暴な信長の気にくわなかったようであるが、この性格づけはかっての久坂栄二郎の映画化されなかった、明智光秀を主人公としたシナリオで読んだ覚えがある。光秀のこうした性格づけは、久坂栄二郎の創見であるのかどうかは知らないが、この映画でも重要なポイントとなっていることはあらそえない。山村聰は適役といえる。しかし、この山村聰にくらべて、織田信長の城健三朗といい、徳川家康の永井智雄といい、何ともお粗末である。羽柴秀吉の東野英治郎も、いつもの東野の精彩はない。

 主演の石川五右衛門の市川雷蔵も、忍者としての凄味にかける。山本薩夫は意識的に戦国時代の英雄たちを、英雄の座から引きおろそうとしたのかも知れないが、それにしても、信長、家康はちゃち過ぎて作品を薄手にしている。このため、折角の山村聰や、一寸目に止った森蘭丸の山本圭を浮き上らせてしまった。

 しかし、忍びの者を、一応、歴史的背景のなかで活躍させているのは、娯楽映画監督とはなっても、荒唐無稽な娯楽映画監督からは山本薩夫の区別されていいところだろう。

興行価値:忍者ブームを作った前篇につづく話題と、波乱万丈の面白い内容で興行は万全。100パーセントの作品。(キネマ旬報)

スケールの大きな戦国劇 *続・忍びの者*

 邦画は、旧盆で各社ともふだん以上の“自信作”をそろえている。中では、大映の『続・忍びの者』が、力のこもったできあがりで歯ごたえがあった。忍者の生態や、権力にふりまわされる忍者の悲劇といった点では、はるかに前編が新鮮だったが、スケールの大きな戦国劇という点に今回は骨太い迫力がでている。企画伊藤武郎、原作村山知義、脚色高岩肇、監督山本薩夫の見識であろう。

 主人公は市川雷蔵の石川五右衛門だが、むしろ内容は戦国武将たちの策謀劇に近い。五右衛門は、信長に伊賀を落され、宗旨の一向宗を迫害され、さらに赤ん坊まで殺されたことから、深く織田をうらむ。ひそかに明智光秀をけしかけて、彼を本能寺夜襲に踏みきらせるのである。“新説”だろう。信長を本能寺で殺したのもじつは五右衛門だった、というのだからたのしい創作である。ただしこの殺人は例の残酷描写が行きすぎて見た目はたのしいどころではない。

 しかし、信長のあとを継いだ秀吉(東野英治郎がいい)は、もっと陰険に一向宗徒をほろぼす。憤怒の五右衛門は聚楽第の秀吉寝所を襲うが、うぐいす廊下のカラクリにひっかかって捕えられ、カマゆでにされる。聞いた家康が、「一人二人の忍者に天下が動かせる時代ではないのだ」とニヤリと笑う話である。このラストの一言が作者のポイントだったようで、じつは映画じだいも、五右衛門の怒りより、家康ら権力者の人の悪さのほうがズッと印象的に迫るできあがりになっていた。

 山本薩夫の演出は、いささか息苦しくカメラを動かしすぎて緩急のゆとりが少ない。殺陣や合戦場面も一応の規模は盛りあがり何よりもいい加減なごまかしで描写を逃げていないのが好ましい。(週刊朝日「週刊試写室」より)

忍者の“復讐工作”  知的スリルの「続・忍びの者」

 一部より政治的になっている。信長の攻撃をうけ伊賀をのがれた五右衛門は、非情な忍者生活がいやになり妻とこどもの三人で平和に暮らそうとする。そして紀州雑賀の里にたどりつくが、忍者狩りをやっている信長の部下は彼らを見逃さず、こどもを惨殺されてしまう。五右衛門は信長への復讐を決意、一向一揆で知られた雑賀党に加わり、信長勢の骨肉離反をたくらむ。原作村山知義、監督は一部につづき山本薩夫。

 前作はいろんな“忍び”の技術、下忍(げにん−下級の忍者)の孤独など、あくまで五右衛門を中心にした人間的な苦悩に焦点がおかれていたが、こんどは五右衛門がくわだてるスパイ工作に比重をかけている。だから人間の追求や、忍者の技術をみる珍しい面白さはないが、かわりにパズルを解くような知的なスリルがある。五右衛門が信長の不興をかっておだやかでない明智光秀に注目、彼のふところに食いこみ、徐々にむほん心をかきたてていく過程は興味深い。

 光秀を利用して本能寺に信長をおそわせてから、秀吉、家康という当時の支配者がつぎつぎ登場するが、これらの描写もコクがある。本能寺の変で、五右衛門は光秀の軍にまぎれて信長の寝所に忍びこみ、片手片足を切り落としてなぶり殺しにするが個人のテロが社会を動かせたのはこの時まで。強大な安定政権をうちたてた秀吉になるともう五右衛門の力ではおよばず捕えられて釜ゆでの極刑にされる。

 ひろがり過ぎた舞台に、演出がややとまどっている難はあるが、天下がうまく自分の手にころがりこむよう工夫した家康こそ、偉大な忍者精神の持ち主だったと断定した結論がきいている。永井が家康の複雑な人間をよくだして好演。B級の上。ワイド、1時間35分。大映上映中。(人見嘉久彦、読売新聞より)

詳細は、シリーズ映画「忍びの者シリーズ」参照。

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