手討

1963年5月29日(水)公開/1時間25分大映京都/カラーシネマスコープ

併映:「対決」(安田公義/藤巻潤・藤村志保)

企画 浅井昭三郎
監督 田中徳三
原作 岡本綺堂
脚本 八尋不二
撮影 牧浦地志
美術 西岡善信
照明 中岡源権
録音 奥村雅弘
音楽 伊福部昭
助監督 土井茂
スチール 浅田延之助
出演 藤由紀子(お菊)、城健三朗=若山富三郎(進藤源次郎)、成田純一郎(近藤登之助)、佐々十郎(与四松)、柳永二郎(松平伊豆守)、阿井美千子(お近)、中村豊(沢主水)、矢島陽太郎(森半九郎)、真城千都世(お仙)、小桜純子(お歌)、毛利郁子(薄雲太夫)、細川ちか子(真弓)、
惹句 『斬る悲しさ、斬られるうれしさ一瞬の太刀風に、二人の恋はかなしく美しく燃えつくした』『武門の意地か、恋の悩みか、愛する女を斬らねばならぬ男の哀切を描いて鮮烈』『斬る悲しさ、斬られるうれしさ一瞬の大嵐に、二人の恋ははかなく美しく燃えつくした』『愛する人のお手討こそ女のよろこび−武門の掟に抵抗する恋ひとすじの女ごころ

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[ 解 説 ]

 徳川の初期、幕府の治世もようやく地につき、世は泰平ムードに酔いはじめたころ、幕府の創立に功のあった直参の旗本はしだいにその存在を軽んじられ、はては外様大名と対立するようになった。

 こうした旗本にとって味けない時代をバックに、一時とはいえ、男の真心を疑った恋人をみずからの手で討たなければならなかった情熱の青年旗本青山播磨と、その恋ゆえに討たれて悔いなき生涯を閉じた美貌の腰元お菊とのロマンチックな悲恋を描くものである。

 原作は岡本綺堂の“お菊と播磨”。脚色は八尋不二。メガホンは田中徳三監督が握っている。また出演者はこの播磨に『第三の影武者』についで市川雷蔵が、お菊には初の時代劇に張り切る藤由紀子があたっている。( キネマ旬報より )

 

藤が初の時代劇に

『手討』旗本・雷蔵の恋人役

 お菊、播磨の悲恋物語で有名な岡本綺堂の原作を改題、映画化する大映の『手討』は、市川雷蔵、藤由紀子の初顔合わせで、田中徳三監督により快調の撮影を続けている。

 徳川時代の初期、大名と旗本が至るところで対立を繰り返していた社会的な背景をバックに、男の真心を疑った恋人を自らの手で討たねばならなかった情熱の旗本青山播磨と、その恋ゆえに討たれて悔いなき生涯を閉じた腰元お菊とのロマンチックな悲恋を描くもの。

 お菊に扮するのは藤由紀子だが“お菊のイメージにピッタリ”という市川雷蔵の推薦で時代劇に引っ張り出されたもの。だが藤は「スラックスはいてボーリングをやってる時が一番楽しい」という現代娘で、「着物を着るのはお正月ぐらいなもの。もちろん時代劇は生まれてはじめて」といっていた。

 「時代劇も機会があればやってみたいと思っていました。これがテスト・ケースになりますので、分からないところは田中先生や雷蔵さんに積極的にたずねながらも絶対やり損ないは許されないと、自分自身キモに銘じています。」と真剣な表情を見せていた。

 田中監督も、時代劇になれない藤に、襖の開け方、お茶の勧め方に至るまでひとつひとつコーチしながら、「折り目正しいお芝居なので、これを機に時代劇をやりたいという藤君にとってまさに格好の作品だと思います。だが型にはあまりこだわらないでほしい。ぼく自身も一人の青年と女性とが死をかけて愛し合った情熱の物語として描くつもりです」という。

 雷蔵も「物語はなかなかロマンチックで、最近流行の残酷ムードとは逆行するようですが、そのムードも先が見えてきたようで、このあたりで新しい路線を敷くとった意味でも頑張りたいと思っています」と語り、きりっとした若旗本青山播磨の豪気さと清潔さを見せて力演している。

“役無情”の阿井美千子

 大映『江戸無情』で、史上にも有名な延命院事件に登場する大奥女中松尾になる阿井美千子、松尾の役が“中年寄”というから、これは表向きの格式からいえば五万石ぐらいの大名に相当するわけ。彼女がセットへ現われた姿を見た西山監督が「さすが、阿井さんほどのベテランだけあって気品貫禄ともに申し分ありませんよ」とほめれば、阿井いささか照れて、「でも先生、明日は『手討』で豆腐屋のおかみさんになるのですよ。トタンに落ちぶれちゃうんだもの」に西山監督も同情顔で、「なるほど、それじゃ“役無情”ですな」とシャレていた。

 

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▼この映画『手討』は、お菊と播磨の美しくも哀しい悲恋物語として有名な、岡本綺堂の原作を改題、映画化するものです。

物語は、徳川初期、幕府の治世も漸く地につき、世は泰平のムードに酔い始めたところから、建幕の際功労のあった直参の旗本たちも次第に疎んじられ、ために目的を失った彼らは至るところで大名と対立を繰り展げるといった社会背景をバックに、最後のひとりとはいえ、一時にせよ男の真心を疑った恋人を自らの手で討たねばならなかった情熱の青年青山播磨と、その恋ゆえに討たれて悔なき生涯を閉じた美貌の腰元お菊とのロマンチックな悲恋を格調高く謳い上げようというものです。

▼キャストは、前作『第三の影武者』で残酷で数奇な運命に弄ばれた若者の一生を演じて好評を博した市川雷蔵が、一転して久しぶりに二枚目役の、血気盛んな青年旗本青山播磨に扮し、美貌の腰元お菊には、大映製作のテレビ映画「人間の条件」でヒロイン美千子を演じ一躍クローズ・アップされた藤由紀子が、初の時代劇とあって意欲も新たに取り組む。

 また、播磨の同僚新藤源次郎には、地味な存在だが、彼がでるのと出ないとではドラマのふくらみ方が違うという城健三朗が扮するほか、成田純一郎、中村豊、矢島陽太郎、真城千都世、小桜純子といった若手スターが顔を揃え、これを助けて、佐々十郎、柳永二郎、阿井美千子、細川ちか子、毛利郁子、加藤嘉、名和宏、菅井一郎といったベテランが脇を固めている。

▼スタッフは岡本綺堂の原作、ベテラン八尋不二のシナリオを、いまや日本映画界の中堅監督として明日を嘱望される田中徳三が意欲のメガホンを取れば、撮影は牧浦地志、録音は奥村雅弘、音楽伊福部昭、美術西岡善信、照明中岡源権、編集山田弘といったベテランがガッチリこれを支えています。(公開当時のプレスシートから)

[ 略 筋 ]

 徳川初期の明歴二年。加賀百万石の屋敷前で旗本新藤源次郎が切腹した。ことのおこりは、過日上覧能が催された折、源次郎が退屈の余り無遠慮な欠伸をもらしたことにあった。舞台で舞っていた前田加賀守は、自分の能にケチをつけられたと思いこみ、源次郎の処分を幕府に迫った。大藩を嵩にきた理不尽な申し入れに、旗本一同は、大久保彦左衛門、青山播磨を通して松平伊豆守にとりなしを願い出た。騒ぎは大きくなり、旗本と大名の対立となった。この騒ぎを知って源次郎は、自分一人が腹を切ればすむと、潔よく男らしい最期を遂げたのだった。

 ある春雨に煙る一日、播磨は新藤の墓標に参った。その帰途、播磨は腰元お菊と結ばれた。己にまめまめしく仕えるお菊の態度に、播磨は将来を誓った。源次郎の死を契機として旗本の近藤、沢、森などが主となって白柄組を結成した。幕府の治世も漸く地につき、世は泰平ムードに満ちていた。建幕の功労者、直参旗本も次第に疎んじられ、目的を失った彼らは至るところで大名と衝突した。

 白柄組の悪名は日に日を追って高くなった。播磨はこれを憂い、自分がこれを抑えなくては、という考えで白柄組の頭領となった。しかし、播磨でもこの流れを止めることはできなかった。そんな流れのうちに旗本の理解者、彦左衛門が亡くなった。通夜の夜の帰途、白柄組と加賀の大名行列は偶然に出逢った。播磨の制止を聞かばこそ、両者は大乱闘を引き起した。加賀守は、島津藩、仙台藩と結んで白柄組全員の引渡しを幕府に要求した。

 困り抜いた伊豆守は、加賀守の縁つづきの姫と播磨の結婚を策した。しかし播磨はこの解決策をけった。ために幕府は播磨に責任を押しつけた。そうとは知らないお菊は播磨の心情を疑い、青山家伝来の家宝の皿を割った。粗相で割らず、播磨の心情を疑って割ったとあっては、播磨も許せなかった。お菊を斬り、自分は白柄組の責めを一身に負って腹を切る播磨であった。( キネマ旬報より )

 

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