三島由紀夫の原作による大映京都の異色現代大作『剣』は、三隅研次監督の的確なメガホンにより、懸命の追込み撮影に入っているが、このほど、広島県福山市の漁港、鞆の浦にロケーションを敢行、強化合宿のくだり、全五十六シーンを撮り終えた。

 秋の全日本学生剣道競技大会を目標にした真夏のシーンだけに、雷蔵キャプテン以下、部員のメンバーは半そでのアンダーシャツ一枚に、トレーニング・パンツという軽装。“比較的暖かい所”ということで、この瀬戸内海沿岸が選ばれたわけだが、海を渡って来る風は、やはり肌を刺す冷たさ、「冬はやっぱり、どこへ行っても寒いんだよ」と、三隅監督はふるえあがる俳優達を、理屈にならぬ理屈で元気づける。主に、海岸や山の上など、吹きっさらしのロケ現場だけに、これが四日間続いて、風邪ひきが続出。おまけに、最終日には“海水浴”をさせられるなど、俳優にとっては御難続きのロケだった。

 剣道部には、“絶対、水泳をしてはいけない”という鉄則があるが、海岸での強化合宿だけに、汗まみれの苦しい練習の後では、海がたまらなく魅力的に見えるわけで、この禁断の海水浴がこのドラマの重大なポイント。この合宿が行なわれる山寺のロケ地が問題だったが、この鞆の浦の医王寺というお寺は、まさにうってつけの場所。眼下に瀬戸内の海を一望の元に見渡すこのお寺を借りて、強化合宿の宿舎に仕立てる。

 連日の快晴に恵まれ、早朝から、ランニング、身体の屈伸運動、腕立て伏せ、竹刀の素振りなど、トレーニング・シーンが、目まぐるしく撮影される。雷蔵キャプテンは、どの運動も率先してやり、三十数名の部員達が、段々、落伍していった後でも唯一人残っているという男なので、みっちりシボられる。腕立て伏せなど「これは、あまりテストをやり過ぎると駄目だな」 と三隅監督は、普段の例に似ず、すぐ本番の声をかける。

 「本を読んだ時から覚悟していたが、剣道の練習やこのロケーションなど、今度ばかりは、体にこたえたよ」と雷蔵は、苦笑いするが、念願の三島作品にファイト満々。冬の陽射しながら、四日間のロケが終了した時には、真っ黒に陽焼けしていた。