赤い手裏剣

1965年2月20日(土)公開/1時間27分大映京都/カラーシネマスコープ

併映:「女めくら物語」(島耕二/若尾文子・宇津井健)

監督 田中徳三
原作 大藪春彦
脚本 高岩肇・野上竜雄
撮影 宮川一夫
美術 西岡善信
照明 中岡源権
録音 海原幸夫
音楽 塚原哲夫
助監督 国原俊明
スチール 三浦康寛
出演 小林千登勢(お雪)、春川ますみ(千波)、南原宏治(北風の政)、須賀不二男(絹屋源兵衛)、吉田義夫(炭屋松次郎)、山形勲(仏の勘造)、水原浩一(久兵衛)、伊達三郎(文造)、若杉曜子(お春)、西川ヒノデ(瀬戸物屋の親爺)
惹句 『一秒間に五本凄くて強くてどうにもならぬ悪の宿場に現われた手裏剣使いの風来坊

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【作 品 解 説】

★ 市川雷蔵のドル箱シリーズ『忍びの者』や『眠狂四郎』に続いて65年度から新しいシリーズとなる痛快でアクションにみちた、西部劇的な時代劇で、革羽織、革袴という流れ者の馬乗姿と、白の着流しという二つのスタイルで、得意の手裏剣をあやつる伊吹新之介がヒーローです。(大映グラフ65年2月号より)

  

 「野獣死すべし」「甦る金狼」など映画化された作品も多いハードボイルド作家・大藪春彦の「掟破り」を原作にしたウエスタン調時代劇(伊吹勘之助を主人公にした連作「孤剣」の一編)。粗筋を見るとまるで黒澤明監督の『用心棒』(1961東宝=黒澤プロ)だが、むしろ元ネタが同じダシール・ハメットのハードボイルド小説「血の収穫」と見るべきか。『用心棒』ぼ桑畑三十郎(三船敏郎)とは違い、飄々として一見強そうには見えず、腕よりも口先でやくざたちを手玉に取る伊吹は、まさに雷蔵に打ってつけの役どころ。また、マカロニ・ウエスタンの影響か、雷蔵は黒革のポンチョに黒革のパンツという、時代劇らしからぬ扮装で登場する。

 鉱山景気で賑わう宿場町にふらりと現れた正体不明の浪人者が、敵対するやくざ組織同士を噛み合わせて壊滅させるという筋立ては、もろに黒澤明の『用心棒』(61)を想起させる。

【梗 概】

 鉱山景気にわき立つ宿場は、三組のやくざが張りあって無法と暴力の町となっています。ある夕方、仏の勘造の一家と絹屋源兵衛の一家の小競り合い中へ、突然馬で割って入った異様な浪人伊吹新之介は、手荒く双方をやっつけ、馬を馬宿にあずけると、酒場「月の井」で、仏一家の子分たちとまたまた大乱闘。

 その伊吹を客分に招いたのが、第三の親分炭屋松次郎でした。伊吹は炭屋にまず五十両で仏一家を潰す約束をして、凄い手裏剣の妙技で「月の井」で開かれていた仏一家の賭場荒しをやってのけます。

 この超無法ぶりには炭屋も驚きますが、おさまらないのは二足草鞋の仏の勘造です。流れ者をかり集めて、伊吹を消す計画を立てると、炭屋はそれを誤解して喧嘩仕度を固めます。これを見て絹屋の源兵衛は漁夫の利を狙って、ひそかに喧嘩仕度をするという騒ぎ。

 仏一家に集められた殺し屋の中に、不気味なブーメランを腰にした不敵な男は北風の政。勘造の出したケチな報酬をけるのでしたが、勘造の情婦で「月の井」の女将の千波の媚態にふっと気を変えて、ひとまず腰を落ちつけます。

 一見無愛想ですが、根は純情な娘お雪のやっている馬宿にふらりと立ちよった伊吹は、その帰り途で仏のはなった殺し屋どもに襲われますが、伊吹の太刀と手裏剣は一瞬にして十人を倒し、傍観者の立場にいた北風の政は、伊吹の手裏剣に惚れぼれするのです。

 その頃、千波は、先年二万五千両の御用金泥棒に加わったまま消息を絶っていた「月の井」の用心棒文造の変り果てた姿にあいます。主謀者の仏の勘造は金を奪った後、仲間を全部毒殺したのですが、文造だけが谷に落ちて一命を助かったというのです。その文造は、千波が水をとりにいっている間に勘造に殺されますが勘造は千波を疑って見張りをつけます。千波は政を抱きこんで勘造殺しをもちかけます。

 一方、伊吹は殺し屋たちの死体を炭屋に運び込み、炭屋の度肝をぬいて約束の金をもぎとると、仏の勘造を入浴中に刀でおどして、炭屋と絹屋をつぶすきっかけを百両で売りこみます。いち早く、この情報をつかんだ絹屋が、炭屋へ駆けこんで伊吹の裏切りを伝えますが、半信半疑の炭屋が、伊吹を求めて馬宿になだれこむと、伊吹は平然として、お雪とずっとここで情事にふけっていたとうそぶき、お雪も否定しないので、絹屋の情報はウソだとなって、三組の乱闘がはじまります。お雪はやくざを嫌って、伊吹のウソに協力したのですが、事件は意外な方向に発展してゆきます。(大映グラフ65年2月号より)

        

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大藪春彦:原作は僕のただ一つの時代小説であり、日本初のリアリズム時代小説「孤剣」である。映画は様式美にこだわった感があり、美しいが荒々しさがちょっと欠ける印象であった。この作品のあと「三匹の侍」等のリアリズムTV時代劇が次々に生れていく。( キネマ旬報08/20/94号より )

 今でも人に会うと、いつしかかって見た映画の話になってしまう。その際出来るだけ知られていないプログラムピクチュア(B級映画)を絶賛して、見ていない相手を口惜しがらせる。この醍醐味だけはなにものにもかえがたいものがある。

 「『拳銃(コルト)は俺のパスポート』(昭和42年、日活、野村孝監督)は本当のハードボイルド映画だったなぁ」「原作藤原審爾。宍戸錠の快心作だった。嗚呼日活アクションよ、いま何処!」

 といった具合の会話が綿々と続くわけ。みんな日活、東映はかなり見ていて作品も強いのだが、大映の話になるとがくんと弱くなる。大映の名物シリーズだった「眠狂四郎」「悪名」「座頭市」以前の映画にははてと首をかしげてしまう人が多い。だから昭和四十四年癌で死亡した一世一代の名優市川雷蔵の初期の作品は、話し相手を地団駄ふませるには格好の材料なのだ。明るいユーモアが楽しかった『濡れ髪三度笠』(昭和33年、田中徳三監督)、メルブルックスも顔負けのヒッチコックのパロディを堂々とやってのけた『かげろう侍』(昭和33年、池広一夫監督)なんて本当に面白くて、映画館を出ると口笛を吹きたくなるような爽快な気分にさせてくれたものだ。

 その市川雷蔵の昭和40年作品に『赤い手裏剣』(大映田中徳三監督)がある。映画館に見にいって驚いた。チャンバラ映画なのに、なんと大藪春彦原作とあるではないか。丁度私が大藪作品中毒症のはしりの頃で、「凶銃ワルサーP38」「蘇える金狼」に取り憑かれていた頃だ。てっきり大藪はガンアクション専門と思い込んでいただけに、まさか時代劇の原作を書いているとは想像さえもしなかった。映画『赤い手裏剣』は、ガンマンスタイルの侍市川雷蔵がガンプレイならぬ見事な手裏剣さばきを見せて、やくざの巣喰う悪徳の町を一掃して何処となく去っていく。「ヘェー、チャンバラ西部劇か、雷蔵も頑張るなぁ」といった感じ。あの大映作品特有の茶色のカラー(わかるかなぁ)がトーンになっていて、砂塵なんか実に格好いいのだ。この『赤い手裏剣』こそは見ている人は少ないけれど、B級映画の面白さを満喫させて呉れる好見本だったと思う。映画を見た後、早速書店で大藪春彦の原作を探して一気に読んだ。本書「赤い手裏剣」は原題を「孤剣」といい昭和39年(傑作「蘇える金狼」もこの年の作品)に出版された大藪春彦作品中唯一の時代小説なのである。(斯波司 角川文庫「赤い手裏剣」解説より) 

 大藪春彦の「赤い手裏剣」(孤独 改題)は角川文庫、徳間文庫等で読める。

   『赤い手裏剣(「孤剣」改題)』
 大藪春彦唯一の時代小説。主人公はとある旗本の三男坊で、今は無頼の浪人伊吹勘之助。腰には二尺六寸の妖刀村正。栗毛の愛馬にまたがり、用心棒として町から町を渡り歩く。「町荒らし」「掟破り」「穏田騒動」「山狼」の四話連作。
 はっきり言って荒唐無稽。いきなりコルト拳銃は出てくるし、秘密武器としてブーメランも出てくる。倒れる敵が膝をつくまでに「その首から胴体を一尺間隔で三つに切断した」のだからものすごい腕だ。黒澤明『用心棒』を大藪ヴァージョンに書き換えるとどうなるかといった類の作品。ちなみに映画化もされていて市川雷蔵が主役を演じている。
 その荒唐無稽な部分の面白さ、つまり・・・大藪の持つ読者サービス精神をふんだんに盛り込んだ作品に仕上がっており、できればもう1冊ぐらいシリーズを続けてほしかった気もする。

  

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