若親分出獄

1965年8月14日(土)公開/1時間27分大映京都/カラーシネマスコープ

併映:「続・兵隊やくざ」(田中徳三勝新太郎・水谷良重)

企画 奥田久司
監督 池広一夫
脚本 浅井昭三郎・篠原吉之助
撮影 本田省三
美術 西岡善信
照明 美間博
録音 海原幸夫
音楽 鏑木創
助監督 黒田義之
スチール 藤岡輝夫
出演 朝丘雪路(中津京子)、坪内ミキ子(お芳)、山田吾一(三吉)、戸田皓久(竹村一夫)、水原浩一(仙之助)、千波丈太郎(鈴木源吉)、神田隆(中新門勇吉)、内田朝雄(堀越伝三郎)、石黒達也(滝沢巳之助)、伊達三郎(白土寅太郎)、森田学(石渡貞七)、伊東光一(井野田一二)、寺島雄作(広田亀太郎)、沖時男(七五郎)
惹句 『腕と度胸は海軍仕込み 意気なきっぷは親ゆずりシャバへ帰った若親分が、かけた奇襲のすさまじさ』『やくざ相手にや勿体ないが腕に覚えの海軍戦法水際だった殴り込み

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■ 解 説 ■

 この映画『若親分出獄』(総天然色)は、さきに、『兵隊やくざ』とセット番組で封切りされや、正月作品をも凌ぐ大ホームランをカッ飛ばした『若親分』の続篇で、大映としては再び同じセットで八月お盆興行もまた一手にいただこうという娯楽巨篇だ。

 ものがたりは、前作で新興ヤクザを叩き斬って獄に入った海軍上りの粋な若親分南条武が、大正天皇ほ御大典で出獄するよころから始まる。懐かしい故郷の街大浜に六年ぶりに降り立った武は、許婚者の京子の姿が見えないばかりか、一家は離散同様の憂目にあい、街は別の新興ヤクザ、中新門一家に牛耳られ、その背後には元大臣の政界の大立者、堀越伝三郎がいて京子はこともあろうにその囲い者になっていることを知る。だが、獄中、ヤクザ稼業の虚しさを悟った武は、全くは過去のことと、集ってきた子分たちと口入業を始めるが、ことごこく中新門一家の妨害に会う。

 折りも折、武の海軍時代の同級生竹村大尉が訪ねてきて、海軍の上層部に一大汚職事件が起り、その元凶が堀越ときいて、武はついに立ち上がり、中新門の親分と堀越を斬るといったもので、海軍士官上がりらしい雷蔵ならではの、意地と気っぷのよさをカラッとした魅力のうちに描こうというものだ。

 キャストは、主演の若親分、南条武には、市川雷蔵、前作のメガホンをとった池広一夫監督の言葉を借りるまでもなく、最近の雷蔵作品では珍しく彼の魅力を100%生かし得た素材ということで、今度も大張り切り、京子には、朝丘雪路が扮し、前作の料亭の若女将とはガラリと変った濃艶なお妾さんになる。武の片腕と目されていたが、彼の留守中、単身中新門に談じ込んで殺された直次郎の妹、お芳に、坪内ミキ子が、久しぶりの映画出演にファイトを燃やせば、鼻っぱしらは強いが、カラキシ意気地のない男三吉には、益々人気上昇中の山田吾一、竹村大尉に戸田皓久、もと滝沢組の親分、巳之助に石黒達也、武の一の乾分松本源吉に千波丈太郎、堀越伝三郎に内田朝雄、中新門の親分に神田隆と新鋭、ベテランが顔を揃えている。

 スタッフは、前作に引き続き、新鋭の池広一夫がメガホンをとるほか、カメラ本多省三、美術西岡善信、照明美間博、録音海原幸夫といった大映京都の誇るスタッフがこれを助けている。(公開当時のプレスシートより)

 京都の東映と大映撮影所で、いまそろって大正時代の侠客ものを撮影している。東映『日本侠客伝・関東編』、大映『若親分出獄』で、偶然にも二作が八月お盆の封切でぶつかる。ちまたにやくざ批判の声は高いが、興行成績ではドル箱的存在で、東映、大映とも負けられぬと力こぶを入れている。

 東映『日本侠客伝・関東編』(マキノ雅弘監督)は“日本侠客伝シリーズ”の三作め。主演は第一作から高倉健が続けている。第一作のときは深川の木場をなわばりに持つやくざだったが、そのご暴力追放の世論に押されてか、二作、三作の主人公はれっきとした定職を与えられている。

 三作めの高倉は船乗りだ。そして鶴田浩二を本職のやくざにして、ふたりのスターを組んで、大映との“対決”に臨もうというわけだ。風来坊のような船乗りの高倉が、魚市場のやくざのなわばり争いに巻き込まれ、鶴田とともに悪玉のやくざをこらしめる話。

 岡田所長は、「ちょっとガラが悪い映画だが、いま、うちでいちばん客のはいるのが、この種の作品だから、お盆はこれで勝負だ」と意気込んでおり、主演する高倉健と鶴田浩二も、「やくざより男の世界の詩情といったものを出せば・・・」といっている。

 一方、大映『若親分出獄』(池広一夫監督)は市川雷蔵主演『若親分』の続編。三月には勝新太郎主演『兵隊やくざ』と組んで、正月興行を上回る成績をあげた。このお盆には、この黄金番組をそのまま『兵隊やくざ』の続編と組むことが決まっている。

 東映と違っているのは、市川雷蔵がれっきとしたやくざで登場している。政界の黒幕と組んでのし上がった新興やくざを、刑務所帰りの雷蔵がやっつける話。朝丘雪路が共演。雷蔵は背中から胸にかけ、童子がイカリをふりあげて竜と戦っているすさまじい図柄のいれずみをして、すごみをきかせている。

 これまで大映が、“貴公子”として売ってきた雷蔵のおもかげはどこへやらといったところ。雷蔵は、「弱い庶民に味方する熱血漢のつもりでやっているが、こうやくざ映画が流行するのもどんなもんですかね・・・。やくざ礼賛にならないよう、気をつけます」と複雑な表情。

 (西スポ 07/15/65)

 

 

■ 物 語 ■

 明治の末期、大浜のボス太田黒伊蔵を斬って下獄した海軍士官上りの若親分、南条武は、大正天皇の御大典の恩赦に浴して六年ぶりに出獄した。沿線の大きな移り変りに目を見張りながらも、ひとり故郷の大浜へ急ぐ武は、さっきから許婚者の京子ばかりか、南条一家の誰ひとり出迎えに来ていないことにひどくこだわっていた。看守部長は、京子宛に出獄通知を出したといっていたではないか!フト不吉な予感に駆られた。

 果して、大浜駅に武を出迎えたのは“中新門組”と染め抜いた揃いの袢纏を着た三十人ばかりの男だちだった。中新門の親分が、出所祝いかたがた、挨拶の盃を交したいというのだ。武は、一旦家に落ち着いた上でと、丁重に断った。

 武の突然の出獄を迎えて、南条一家は歓びに湧いた。彼の留守中、九州から流れてきた中新門勇吉が、政界の実力者、堀越伝三郎の庇護を受けて、土建・金融・不動産などの看板を隠れミノに善良な市民を苦しめる一方、南条組の縄張りを奪い、話し合いにいった直次郎は殺されるなど、一家は悲惨のドン底に落ちていたからだ。

 直次郎兄いの仇を、六年間の怨みを一挙に晴らそうといきまく三吉、仙之助らに、武は、獄中で考えたヤクザ稼業の虚しさを諄々と説いて堅気になろうと宣言した。直次郎の妹で、南条家に手伝いに来ているお芳は、武の考えに共鳴して、その人柄に強く心惹かれた。

 武は、その足で料亭“花菱”に勇吉を訪ねて、自分はやくざの渡世から足を洗い、口入業を始めることを伝えた。武の姿を垣間見た女将の京子は、彼の出獄を知って喜んだが、いまは堀越の囲い者となっている身を恥じて逢おうとはしなかった。だが、中新門が、京子宛の武の出獄通知を握りつぶしたことを聞いて、思わず彼に平手打ちをくれるや、武の後を追った。今更、詫びてもどうなるものでもない、と思った京子は、思い出の鬼子母神の境内で、気のすむまで叱ってくれと武に縋りついて泣いた。

 武の口入業は、最初から中新門の妨害を受けた。おまけに、堀越の命で、表向きは合法的な形をとりながら土地や町工場を暴力で取り上げ、市民のなかには発狂する者さえ現われる始末に、独りニトログリセリンの壜を懐に中新門の事務所へ乗り込み、以後はかかる無法を繰り返さぬという誓約書に署名させて引き上げた。

 一日、武と海軍時代の同期生、竹村大尉が、訪ねてきた。聞けば、海軍の上層部に一大汚職事件が広がりつつあることを知って、建白書を提出したところが、この大浜とつい目と鼻の先にある海軍鎮守府に左遷されてきたという。おまけにその中心人物が、堀越伝三郎と知って、武は、この有為な人物の前途を誤らせてはならないと、秘かに期するところがあった。

 そんな折も折、仙之助が中新門の輩下の者に誘き出され殺されるという事件が起った。竹村大尉たちが、武と連絡を取っているのを知って、堀越が、小さな芽の内にと、武を挑発すべく仕組んだ罠だった。武は容れられるまでもいま一度、誠心誠意説得しようと、単身、中新門の事務所へ向かった。途中、気配でそれと知った三吉たちが、二人三人と得物を懐に、見え隠れに、ついてきているのを察して、武は苦笑した。が、武を葬ろうと、その機会を待っていた中新門の一家は耳を貸すどころか、初めから好戦的だった。ここに八人対五十人の決斗が開始された。武は現場の地勢を判断して適所に突嗟に、八人を配置し、海軍式戦法で目指す中新門を倒すや、懐かしい海軍士官服を着用して鎮守府に堀越を訪ねて、これを一刀の許に斬り捨てた。

 京子がそれを知って駈けつけたときには、武は、竹村たちの用立ててくれた船で、大陸へ向けて出帆した後であった。(公開当時のプレスシートより)

■ 宣伝ポイント ■

 度胸と気っぷの良さで売り出す若親分。海軍士官上りらしいカラッとした魅力を颯爽と売る。

■ 放送原稿 ■

 皆様、本日は御来場下さいましてまことにありがとうございます。只今より次週公開の総天然色、「若親分出獄」の御案内を申し上げます。

 この映画『若親分出獄』は先に封切られ大好評を博した『若親分』の続篇で海軍上りの若親分市川雷蔵がその魅力を100%披露する颯爽の娯楽篇でございます。

やくざ相手にゃ勿体ないが、腕に覚えの海軍戦法!水際だった殴り込み!

 雷蔵ふんする若親分を中心に濃艶な魅力の朝丘雪路、それに坪内ミキ子、山田吾一、三田浩久、石黒達也等新鋭、ベテランが共演の火花を散らす、池広一夫監督作品でございます。

皆様『若親分出獄』、総天然色『若親分出獄』を何とぞ御期待下さいませ。(公開当時のプレスシートより)

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詳細は、シリーズ映画「若親分シリーズ」参照。

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