ある殺し屋の鍵

1967年12月2日(土)公開/1時間20分大映京都/カラーシネマスコープ

併映:「残侠の盃」(田中徳三田宮次郎・川津祐介)

監督 森一生
原作 藤原審爾、弥生書房「消される男」より
構成 増村保造
脚本 小滝光郎
撮影 宮川一夫
美術 西岡善信
照明 中岡源権
録音 海原幸夫
音楽 鏑木創
助監督 大洲斉
スチール 小山田輝男
出演 西村晃(遠藤)、佐藤友美(秀子)、山形勲(北城)、中谷一郎(石野)、金内吉男(荒木)、伊達三郎(西村)、伊藤光一(菊野)、内田朝雄(朝倉)
惹句 『衆人監視のなかで、目撃者ゼロの殺人凶器は針一本その完璧な殺しのテクニック』『音もなく、声もなく、衆人環視の真っ只中で、すれ違ったその瞬間・・・・・冷静にして残酷な殺しのテクニック』『針一本静かなテクニック限られた時間に、指定の場所で、狙った獲物は必ず倒す

      

■解 説■

 この作品「ある殺し屋の鍵」は、「ある殺し屋」の第二作で、市川雷蔵扮する殺し屋が、華麗なテクニックの数々を披露する異色のサスペンス映画です。

 ものがたりは、ふだんは、もの静かな生活を送る日本舞踊の師匠だが、殺しを請け負えば凄腕を発揮、針一本で片をつける殺し屋が主人公、その殺し屋が、仕事を依頼しながら裏切ったやくざとその奥で糸をひく政界の黒幕に挑戦、衆人環視の真只中で手口も残さず消しさるといったもので、ホテルのプール、空港の待合室といった群衆の中で行なう鮮やかな殺しのテクニック、敵側の殺し屋との息詰まるような駆引きなどサスペンス溢れるシーンがいたるところに盛り込まれています。

 前作と同じく藤原審爾の原作「消される男」をシナリオでも異才ぶりをみせる増村保造が構成、小滝光郎が脚色したものを前作の名コンビ、ベテラン森一生監督、流麗宮川一夫カメラマンが素晴らしいタッチで描いていきます。

 颯爽の殺し屋ぶりをみせる市川雷蔵は、前作の好評に気を好くしての登場だけに、磨きのかかった殺しのテクニックをみせてくれます。また、殺し屋雷蔵に消される男たちには、西村晃、山形勲、中谷一郎らが扮しますがベテランぞろいだけにその演技ぶりは見ものです。また、話しの流れに重要な役割を果す紅一点の芸者には、松竹と契約を結ぶなど最近売り出しの佐藤友美が大映初出演、新鮮な色気をふりまきます。(公開当時のプレスシートより)

 

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■ 物 語 ■

 ある花街の奥路地、黒塀に囲まれた小粋な家それが殺し屋新田の住み家だった。その道では一流の腕を持つ新田も表向きは、日本舞踊の師匠として静かな暮らしを送っているのだった。新田の素性を知らぬ女弟子たちのなかには、芸者秀子のように端麗な顔に惹かれ誘う者もいたが新田は謹厳な態度を崩そうとはしなかった。

 ある日、海上を突っ走るヨットの中で石野組幹部荒木とあった新田は、ある男を消してくれと頼まれた。その男とは、政財界の秘密メモを握る脱税王朝倉だった。保釈中で刑事の目が光っている朝倉を消すのは至難ともいえることだった。だが、厳重な警戒の目をくぐり、朝倉の日課、警護状況を調査した新田は、資料の写真を手に石野組を訪れ、手付金一千万、完了後一千万の約束でこの仕事を請け負った。

 綿密な調査から、朝倉の定宿スカイライン・ホテルを仕事の場所と決め、荒木の協力を得てプールに入り込んだ。泳ぎに興ずる人たちの中に朝倉を見つけた新田は、水中を潜行、すれ違いざま刺殺しようとしたが、突如近づいた女にさえぎられ好機を逸した。浮び上った新田は、思いもかけず秀子から声をかけられた。スポンサー、朝倉に呼ばれた秀子は、朝倉とプールを楽しんでいたのだった。プールサイドに坐り話しかける秀子をよそに朝倉の動きを追う新田は、刻々と迫る時間を焦慮していた。だが、秀子がプールに飛び込んだスキに、再び水中に身を沈めた新田は、ゴムボートに身をゆだねる朝倉に接近、周囲の人々にもさとられぬ瞬時の早業で仕事を終えた。異変に気付きプールが騒然となった頃、新田は荒木との約束の場所に姿を見せていた。だが、そこには無人の車のみがおかれていた。荒木がブレーキを細工した車とも知らずハンドルを握った新田は、坂道でガードレールと激突谷底へ転落した。

 危うく危機を脱した新田は、石野組の裏切り行為お奥に黒幕が存在することを知った。秀子をだしに荒木と石野を次々と誘いだした新田は、約束の金の上に一千万の慰謝料を巻き上げ、黒幕の名を吐かせようとしたが、二人はボスの所に案内するとみせ突如反撃してきた。だが所詮は、新田の敵ではなく、自動車もろとも谷底に消え去った。

 殺しの報酬を貸ロッカーに預けた新田は、真相を探ろうとして政治雑誌記者に化け、朝倉の弁護士だった菊野を訪ずね、菊野の不審な態度から遠藤建設とのつながりがあることを知った。

 一方、遠藤も菊野の急報や踊りの会の券を売りに来た秀子の言葉から、新田が殺し屋であることを知り、踊りの会の帰途、新田を狙撃したが失敗に終った。

 事情のわからぬまま、新田、遠藤両方から互いの手引きを頼まれた秀子は、うまく立廻り新田から金を遠藤からレジデンスを世話させるなどがっちり稼ぐガメツサをみせていた。だが、そんな秀子を見抜かぬ新田ではなかった。遠藤が通う夜、ロープ一本で巧みに秀子の部屋に忍びこんだ新田は、遠藤を締め上げ一千万を出させ、石野、荒木にした同様に黒幕の名を聞きだそうとした。返事のかわりにカミソリ片手に襲いかかった遠藤は、かえって自分の脇腹を刺し黒幕の名を明かさぬまま息絶えた。しかし、新田は、幸運にも遠藤にかけてきた秘書の電話から、黒幕がヨーロッパへ飛ぶ政界の大立者北城であることを悟った。

 数時間後多数のボディ・ガード、見送人でごったがえす空港の中に、カメラ・マンの姿の新田もまじっていた。北城歓送の万才が巻き起りフラッシュが閃めいた瞬間、巧みに身を寄せた新田の手は動き北城を刺していた。万才と拍手が、驚きの声に変った時、新田の姿は、出口を抜け出していたが、途中ポケットの破れと大切なロッカーの鍵の紛失に気付き愕然とした。意を決した新田は、警戒網を切り抜け、死体の近くで光っている鍵を発見した。

 しかし、貸ロッカー場に着いた新田の目に入ったのは、爆薬を仕掛けたという情報で調査している警官の姿だった。自分のロッカーからアタッシュケースが出され数千万の札束が現れた感嘆の声が周囲の人々からもれた時、新田の姿は、なんの未練も残さず人波の中に消え去っていた。(公開当時のプレスシートより)

 新田は(市川雷蔵)は日本舞踊の師匠。芸者の秀子(佐藤友美)がいいよるが、謹厳そのもの。だが本体は殺し屋だ。石野組幹部荒木(金内吉男)から、政財界の秘密メモを握る朝倉(内田朝雄)の殺害を頼まれる。一千万の報酬だ。だが朝倉は保釈中で、刑事とボディーガードに囲まれていた。新田の早業はしかし彼らを出し抜く。

 完了後、荒木は新田を消そうと車に細工する。危機を脱した新田は、石野組の裏切りに挑戦。秀子をダシに荒木と石野組長(中谷一郎)を誘い出し復讐。ギャラ二千万を奪う。さらに、石野の背後遠藤建設(西村晃)のボスで政界の大立て者北条(山形勲)を仕止める。すべて彼の巧妙な技法によるが、肝心の金はやっぱり身につかなかったという話。

 前作『ある殺し屋』は興行的な大ヒットではなかったが、クールな映像感覚がさえ返り、見事なものがあった。大いに批評家や見た人を喜ばせたものだ。そこでこの第二作となった。やはり森一生の演出は快調。宮川一夫のカメラもまた秀抜。市川雷蔵もそのマスクの冷たい端正さを生かし、どのシリーズよりも現代感をもつ、といった前作の特質はこんども受け継がれ、特異なスタイルを見せている。

 前作に比べると、いささか力の復讐とかヤクザっぽさがハナにつき、スマートさに欠けるのはストーリー、つまり脚本に弱点があるようだ。クール・タッチは力でなく、知性に通ずることをあらためて思うべきところだ。静かで小粋な踊りの師匠の生活、虫も殺さぬやさ男、といった環境条件はおもしろいので、この条件をもっとドラマチックに使いたかった。ここにはフランスの暗黒ものを思わすムードと、性格がある。アクションものと違ったキメこまかいサスペンスは、新しいたのしさでもある。増村保造も構成の上で助力したようで、三隅研次の『あねいもうと』ものとともに、大映京都の珠玉的な中編ものとして大いに育てていきたいものである。(君島逸平)(西スポ 12/13/67)

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