超大作を彩る三大スターの競演

《華岡青洲の妻》撮影快調

美しくもすさまじい妻と姑の愛の葛藤を描いて、女流文学賞に輝いた有吉佐和子の名作が、脚本新藤兼人、監督増村保造、撮影小林節雄という、最高のスタッフで映画化されました。市川雷蔵、若尾文子、高峰秀子の豪華なキャストを得て、この秋一番の話題作になりそうです。

 紀州。名手本陣と呼ばれる士分格の家に生まれた加恵は、子どもの頃から、美しく賢い女と憧れていた華岡家の於継に、医家の嫁にふさわしいと切望され、自らすすんで嫁いできました。夫になるべき青洲は、当時京都に遊学中で、花婿の代わりに本草綱目という薬草の本と結婚式をあげ、三年後の帰郷を待ちます。華岡英は貧しく学資作りに一家の暮しは切りつめられ、女たちは機を織らねばなりませんでしたが、まだ見ぬ夫を想いながら、於継のあたたかい目に守られた加恵は幸せな日々をすごしていました。

 しかし、青洲が帰ったとき、於継のやさしい態度は一変し、加恵の夢は打ち砕かれてしまいます。於継のすべての振舞い、息子を嫁に渡すまいとする意識がのぞき、加恵は於継に敵としての闘志すらわかすのでした。そして嫁と姑の間にはすさまじい愛への争いがくりかえされていきます。

 一方、青洲は女たちの闘いをよそに麻酔薬の完成に没頭していきました。動物実験が成功し、あとは人体実験を残すだけという段になると、於継と加恵は自分を実験に使ってくれと青洲につめ寄ります。だが、それも青洲を独占するための、嫁と姑の異常なまでにはげしい争いでした。

 

青洲の妻加恵 若尾文子

 何不自由のない娘時代をすごした、おっとりした加恵も、美しい姑の冷たい仕打ちに、敵意を燃やします。夫青洲の麻酔ク薬に人体実験が必要と知ると、姑と争って、より強い薬を飲み、やがて失明します。しかし加恵は幸せでした。加恵は姑との戦いに勝ったのです。強い薬を飲んだときの青洲のやさしさのなかに加恵は、夫の確かな愛情を感じたのでした。夫の医学の成功に、自分が大きな役割を演じたという満足感が、加恵の心を充たし、姑に対しても平静な気持ちをとりもどします。

華岡青洲 市川雷蔵

 1805年、ヨーロッパの医学に先立つこと四十年、青洲は全身麻酔による乳ガンの手術に成功しました。しかし、この医学の成功の裏には、妻と母の静かな、激しい争いがあったことを、青洲が気づかぬはずはありません。天才肌の彼は、むしろ二人の争いを利用し、冷徹にも、女たちに未完成の麻酔薬を飲ませて人体実験を行ったのでした、彼の愛を独占しようとして戦う妻と母を、冷徹な目で見守りながら、二人の愛と憎しみのすべてを吸収して、外科医としての名声を礎いたのです。

青洲の母於継 高峰秀子

 美しく賢い女、と近隣に評判をとる於継も、一皮むけば、息子の愛を独占しよとして、嫁に激しい嫉妬心を燃やす一人の女にすぎませんでした。嫁よりも先に麻酔薬を飲んだ彼女は、加恵が後で飲んだものより、ずっと弱い薬だったと知って、歯ぎしりをし加恵が薬からさめたときに示す息子の細やかな愛情を目のあたりに見せられて、激しい憎悪の念を燃やすのでした。あれ程強く美しかった於継も嫁との戦いに敗れたと知って絶望感から世を去ります。

(「大映グラフ」67年10月号より)