美しい人

 加恵は八才のとき初めて於継を見た。話にきく美しくかしこいその人を見たいとねだって、乳母の民に手をひかれて山道を歩いて、垣根ごしに見たのである。

 二度目は祖父の葬式の時であった。髪ひとすじみだれぬ鮮やかさに十八才の加恵は全身がしびれるような胸の動悸をおぼえたという。

縁 談

 その於継から縁談があったとき、加恵は天にものぼる心地であった。

嫁  入り

 天明二年の秋、加恵は二十一才で華岡家へ嫁いだ。近郷の地士頭を勤める父・妹背佐次兵衛はたかが田舎医者のくせに身のほどを知らぬ申入れとしぶったが、加恵の希望と於継の水ぎわだった弁舌におしきられたのであった。

 夫となる華岡雲平(後の青洲)は医学の修行に京都に遊学中で、加恵はひとりぼっちで式をあげたのである。花ムコの座には医家の聖書たる本草綱目(薬学全書)が置かれたのがなにやら象徴的であった。

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