橋幸夫出演の由来

比佐: 私が、話の引出し役をさせていただいて貴方がたが、大映の製作陣営を組んだということで、京都の時代劇を中心に語っていただきたいのです。最初に僕が喜びたいのは最近の『おけさ唄えば』と『悲しき六十才』が大変に当ったことだけど、この橋幸夫を抜いて来たのは松山君だという評判あるけど、ほんとかね。

松山: ええ、これは、昨年の十月ごろ、ビクターにいる佐藤邦夫君が、橋幸夫君を連れて来て、十代の歌手で民謡調の歌を唄う子がいるが、なかなかいい歌手だから、一ペン見てみませんかと言う話なんだ。で、潮来笠のレコードを持って来てたんで、聞いたんだが、歌のことはわからんし、別にどうということもない。ところが、ヅラののる顔なんだ。で、歌の方はわからんが、役者になったらどうだ、役者だったら一人前になれるぞと言ったんだ。橋はポカンとしてたがね。幸い「潮来笠」を吹きこんでいるんならうちで『潮来笠』という題で中篇を撮るから、そこで一本やったらいいじゃないか。ただし条件が一つある。それは映画は大映以外は出ないというのでなければ引きうけないといったわけだ。で、昨年の暮、京都に来て、『潮来笠』に出たわけだ。でも、そのころは、これほど人気が出ると思っていなかった。

比佐: うん、それは誰も思わん。

松山: 僕もただ役者にさそったらどうかなと思って、やったんだが、それが歌で人気が出たわけだ。後で聞くと、この佐藤君が、方々に話をもって行ったらしいんだけど、役者で成功するといったのは僕一人なんだよ。

八尋: まだ十六くらいだったんだろう。

松山: いや、昨年だから十七だ。

比佐: 僕が、東映で橋幸夫君の歌というのをうちの杉井プロデューサーに言うたのは、昨年の十二月の末だったか、正月の初めだったかな。ああいう素質はテレビ見ているとわかるんだな。やっぱりこわいよ、爆発的な人気の出鼻というのは。あれが安定してしまうとあんまりゼニがもうからない。

依田: それはそうやな。

松山: あれは、ビクター自身もびっくりしている。いろいろな歌手が出たけど、あれほど当ったのは始めてだというわけだ。

比佐: そりゃ、みんなびっくりしている。それにタイミングがよかった。『木曽節三度笠』を出してパクッと来たからな。

松山: ビクターのプロデューサーは、坂本九とか、森山加代子の人気というのは、未完成の人気だと言うんだ。やっぱりさすがに、ああいうタレントを育てている人は、一つの見識をもっているね。

歌から出る企画

比佐: 中泉所長は、こういう、歌謡ものの当りということに将来どう考えている。

中泉: 僕は、あらゆる娯楽作品は、全部歌が入るべきだと思うんだ。歌謡映画という、歌から出た企画はまた別ですがね。が、いまテレビであれだけ、歌のタレントが出て来ると、歌から出る企画もたくさん出るでしょうね。これは、若い観客を動員する、底力をもっていますな。

比佐: 僕はこういう風に考えているんだ。テレビで、一週ごとに、歌のアルバムとかを出している。あれが映画ファンを含めて、一般に浸透して行く速度は、映画を通じて浸透してくる速度と、ずい分違って来ていると思うんだね。

中泉: そうそう、それはたしかだ。

比佐: だから、いま、中泉君のいう、新しい、僕らの言葉で言えば、イロ物をどんどん映画にして行くという方針は絶対やと思うね。

中泉: テレビを利用するというのか、この前の週は、橋幸夫、森山加代子、坂本九という、テレビタレントでしょう。まあ、テレビで宣伝しているのを映画でうまく当てたという感じですね。

比佐: そのセンスは、これから、絶対かかせないね。

中泉: そう、そう。

依田: 私も同感だな。

八尋: 例えば『悲しき・・・』の魅力というのは、家の子供が見て来て、どうだと聞くと全然面白くないと言う、面白くないといいながら、やっぱり見に行くということね。

比佐: そう、その心理ね。

八尋: 見てよかったなあーでは遅いんだよ。

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