市川雷蔵 ・ 橋幸夫

橋  (ワンマンショーのとき雷蔵から贈られた劇用の朱ザヤの刀をたたいて)この刀どうも有難うございました。国際劇場ではじめて使ったとき、悪党どもに「これはいま雷蔵サンからもらいたての刀だからよく斬れるゾ!」ってアドリブ(即興的なセリフ)を入れたら大ウケ。(笑)おかげで、こんなに刃コボレしちゃった。

雷蔵 うわッ、こらひどい。早く手入れせにゃいかんヨ。僕が刀屋サンにたのんであげよう。

雷蔵さんにもらった刀、あまり張り切って使ったのでボロボロに刃が欠けちゃったんです

  こんどはじめて共演させてもらうわけですけど、時代劇はむずかしい約束事があるでしょう?

雷蔵 すぐ馴れるサ。殺陣だって十本も撮れば、一応わかる。それに君は舞台やテレビに出てるんだから、心配なしだ。それより橋クンは、現代劇をやりたいんだって・・・?

  いえ、時代物がキライというわけじゃなくて、もしボクシング物なんか撮れれば、と思ったんですよ。

雷蔵 フーム、僕もたまには現代物やりたいもんなあ。

  雷蔵サン、僕の歌きいて下さってますか・・・

雷蔵 そらスイッチひねれば、必ず歌ってるもん。(笑)

  僕、これから歌と映画の二本立で行くわけですが、先輩としてなにか・・・

雷蔵 両方つづければいいさ。君は歌手として一つの歴史をつくったんだから、こんどは俳優としてガンバレばいいんだ。昔の歌手は声だけでよかったけど、いまは舞台や、テレビがあるし・・・アクター(俳優)の勉強をするチャンスだヨ。最近吹き込む予定のレコードは・・・?

  詩吟入りの「白虎隊」っていうのがあるんです。

雷蔵 ほう、僕のデビュー映画が『白虎隊』なんだヨ、偶然だなア。(とニコニコ)

−とここで記者が「お互いについて何かひと言」と水をムケると、弟ヒツジの橋クン、ちょっとテレて・・・

  雷蔵サンは男らしくって。すごくタヨリになるなア・・・(笑)

雷蔵 いや、タヨりにゃならん。それより君は十七歳にしては、ずいぶん大人っぽいムードを持っている。赤いジャンパーなんか着ているけどね。(笑)

  だって、僕は九人兄弟にモマレて育ったでしょ。生存競争のキビシサで、すっかり大人びっぽくなっちゃった・・・(笑)

 対談会場にあてた撮影所長室は、早春の陽ざしでポカポカとあたたかい。そこで、雷蔵と橋幸夫は肩をならべて戸外へ - 

雷蔵 橋クン、君、身長は・・・?

  ちょうど五尺二寸かナ。

雷蔵 僕より一寸五分低いだけだ。しかし君はまだ五、六年のびるから、安心できんネ、ハハハ・・・

 二人の明るい笑い声が、なごやかに、あたりにひびく。だが一日おいた十六日には、もう『おけさ唄えば』の撮影が開始された。映画、舞台、テレビ、ショー、レコーディング(吹込み)・・・びっしりつまったスケジュールの合間をぬって、高校の勉強をつづけるセブンティーン歌手。

 橋幸夫があたたかい家族たちの手に守られ、幅ひろいファンの声援に応えて、さらにたくましく大成する日を祈ろう・・・

(週刊明星04/02/61号より)

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