「素襖落」

 暗い「油地獄」のあとだけに、見物は開放されたような明るさの中に、のびのびと手足を伸ばして楽しんでいるかのように見えた。その上、それまで繁斎、徳兵衛と二つの老役で窮屈そうだった蓑助が、やっと本来の蓑助に若返って、憂さ晴らしも手伝ってか、存分に踊り抜くのだから、舞台も活気横溢して、これまで見慣れてきた六代目の「素襖落」とは、また別の面白さが見られた。

 蓑助の太郎冠者は勿論初役で、前月の御園座に続いての舞台だが、従来の六代目の巧いが、聊か曲芸じみた踊りを、正道に戻したと云う点に味噌がある。それだけに眼目の物語りなど、円転滑脱を極めた六代目に比べれば、如何にも堅苦しい感じだが、誤魔化しのない精一杯の踊り振りには、心を打たれるものがあった。

 福助の大名、延二郎の鈍太郎を始め、鯉昇、莚蔵の次郎冠者、三郎吾にも若さが漲っていて、清新の気を覚えさせた中に、雛助の姫御寮のみが、どう云う訳か薹の立った感じで、聊か生彩を欠いていたのは遺憾だった。               (井上甚之助)

 

 

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