○蚤取男」「水や空」
切りの所作事は、猿之助父子の「蚤取男」と珍しや又一郎の「水や空」である。猿之助の男は、こんなものになると、専売物というのか、楽々と踊っていて、見物を文句なく楽します。段四郎の猫は軽妙だが、惜しい哉肥り過ぎて形が悪い。
「水や空」は、又一郎の絵行燈売りを中心に、延二郎、雷蔵、雛助、延太郎の面々が、一ト通り踊るというだけのもの。
○「与話情浮名横櫛」
寿海の与三郎は、同じ羽左畑のものでも、「弁天小僧」より一段と優秀である。羽左の名品が既に見られなくなった今日、寿海の与三郎は、立派に一級品として通る。訥子の蝙蝠安も安手なところもあって、今度の訥子の持役の中では一番よい。富十郎のお富は、鴈治郎とは反対に、夜の部ではこれ一ト役という寂しさだが、出来も上々とはいえない。お富という役は、与三郎以上にやりにくそうな役だ。寿美蔵の藤八は、かなり突っ込んでやっているが、まだまだ生硬で、脇役の妙味を発揮する域にまで達していない。若い雷蔵に下女およしは気の毒だ。(井上甚之助)
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