○蚤取男」「水や空」

 切りの所作事は、猿之助父子の「蚤取男」と珍しや又一郎の「水や空」である。猿之助の男は、こんなものになると、専売物というのか、楽々と踊っていて、見物を文句なく楽します。段四郎の猫は軽妙だが、惜しい哉肥り過ぎて形が悪い。

 「水や空」は、又一郎の絵行燈売りを中心に、延二郎、雷蔵、雛助、延太郎の面々が、一ト通り踊るというだけのもの。

○「与話情浮名横櫛」

 寿海の与三郎は、同じ羽左畑のものでも、「弁天小僧」より一段と優秀である。羽左の名品が既に見られなくなった今日、寿海の与三郎は、立派に一級品として通る。訥子の蝙蝠安も安手なところもあって、今度の訥子の持役の中では一番よい。富十郎のお富は、鴈治郎とは反対に、夜の部ではこれ一ト役という寂しさだが、出来も上々とはいえない。お富という役は、与三郎以上にやりにくそうな役だ。寿美蔵の藤八は、かなり突っ込んでやっているが、まだまだ生硬で、脇役の妙味を発揮する域にまで達していない。若い雷蔵に下女およしは気の毒だ。(井上甚之助)

 御曹司と若手俳優らでジュニア会の発会

 故白井会長の次男白井昌夫氏、大阪歌舞伎座の広田一氏と、役者側から延二郎、鶴之助、扇雀、鯉昇、雷蔵の諸君とでジュニア会というのが結成された。名づけたのは鯉昇君、二十代の人々の親睦の会で、大いにくつろごうという訳。

 もっとも延二郎は二十代ではないが、気持だけは二十台ということで参加することになったが、この会によって若い精神が豊かにのびて行くことであろう。