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昭和二十六年度の回顧

○漸く建設期に入る-二十六年度関西劇壇の成果-

 (前略)武智鉄二氏指導による花形歌舞伎が白井信太郎氏の後ろ楯で本格的に仕事をはじめたことも本年に於ける大きい収穫というべく、二月南座での井上八千代振付「宇治川」の扇雀、莚蔵、秀公、五月文楽座での「佐太村」「鳥辺山心中」の礎石は八月南座興行によっていよいよ真価を発揮し、武智氏指導の「妹背山」の御殿では鶴之助が立役として貫禄を示せば、鯉昇の求女も悪い出来ではなく、扇雀のお三輪又あの難役を相当にこなし、谷崎潤一郎氏の「恐怖時代」は演出をうんとドギツク南北ものの味でゆこうとしたところに面白味、凄惨さが出て評判となり、小姓伊織之介の扇雀又秀逸、つづく「鳥辺山心中」のお染もいい出来なので親の鴈治郎をしのぐとまで讃えられ、ほかに六月の「滋幹の母」の滋幹、十一月「源氏物語」桐壺の巻の光君と全くの本塁打で若手第一の有望組に数えられ、彼とは別にこの花形歌舞伎の成績で認められたものに莚蔵があり、寿海の養子となって雷蔵を襲名七月寿海が襲名後初の東上に伴われて晴れの歌舞伎座の舞台を踏んだ。

 こうして、今年の花形歌舞伎の活動には相当に目覚しいものがあった。(桂田重治)