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 「摂州合邦辻」は先年西宮日芸会館で鴈治郎が玉手御前を試みた。なおさらだが、扇雀がさきに武智歌舞伎で成功しているだけに興味深く、これも兎も角失敗ではなかった。「つづやはたち」という原作には扇雀の方が近かったわけだが、鴈治郎としては、年増美を見せたかったのがよい。大体に丸本尊重で、「芦の浦々なにはがた」あたりもあまり動かずに、潮によい形を見せた。それより浅香姫への嫉妬の狂乱に激しさを示したのもよい。幕切れは目が見えぬ幽霊ぶりだったが、とにかく権太と同じようなシチュエーションの演分けをやり終うせたわけである。ただ衣装の黒紋服はよいとして、帯の模様と好みの悪さが見えた。

 合邦は訥子として以前の時蔵のときよりもよくなったが、少し青砥左衛門の末というのにこだわり過ぎて、やや悪僧じみる。娘の生存を確かめて、位牌の貼紙を引きはがし、位牌とも懐に入れるのは珍型だ。新之助の女房は邪魔にならぬだけましだった。雷蔵の俊徳丸はなかなかの男振りを見せるが、吉弥の浅香姫は少し萎びているのが気になる。